第6話 熱帯夜
「それじゃ、俺はこの辺で」
この手の話題を避けたい俺は立ち上がった。
「どこに行くの?」
「宿屋にでも泊まろうかと」
「こんな時間に泊めてくれるところないわよ。それに部屋埋まっちゃってると思うわ。ここに泊っていけばいいじゃない。ね?」
それは……困るな。なんというか困る。
「アタシもなんだか眠くなっちゃった。寝室に案内するわね」
「いや、俺は」
「遠慮しなくていいから。さ、こっちよ」
強引に腕を引かれて部屋に連れていかれる。ミネア姐さん、腕に何かあたっています。
寝室には大きなベッドが一つ。夫婦の寝室って感じだなこれ。
「それじゃ、俺は床で」
「何言ってるのよ。ちゃんとベッドで寝て。ふぁ~あ、眠たい。アタシは先に寝るわよ」
ミネアは布団潜り込んだ。すぐに寝息が聞こえてきた。よかった、すぐに寝てくれて。
俺はベッドの端っこの方に座った。窓から海が見える。月明りが照らす穏やかな海だ。今日は満月。ワーウルフでも出てきそうないい夜だ。潮風が心地よいが、少し蒸すな。
それにしてもルドルフのやつ、嫁さんほったらかしにしてどこまで冒険に出てるんだ。会ったら三発くら殴ってやろう。そうしよう。
さてと。ここじゃ寝られそうにないから、酒場にでも行って酒でも飲むか。
と、その時だった。
しゅるると俺の身体に何かが巻き付く。背中から抱きしめられ、熱い吐息が耳にかかる。
「み、ミネア? ど、どうした? どうしたんですか!?」
背中に何か大きなものが押し付けられているのですが。嫌な予感はしたんですよ、やっぱり。強引にでもこの家を出ておくべきだった。
俺は押し倒され、ベッドに仰向けになった。
ミネアは着ている服を脱いだ。ぷるるんと何か大きなものが揺れている。月明りに白い肌が照らされ、きらめいている。
ぼんやりしていると、俺の服もするりと脱がされてしまった。
ミネアは長い舌を俺の首筋に這わせた。ぞくぞくとした感覚が全身を駆け巡る。
「レオン……アタシを、抱いて」
「み、ミネアさんなにをいってらっしゃるのですますか」
「アタシ……寂しいの。もう、独りは嫌なの。おねがい……」
俺の上半身のあちこちにミネアさんが口づけする。頭がくらくらしてきた。心臓がバクバク鳴り、息が詰まりそうになる。
ミネアの肌に吸い付かれそうだった。ひんやりと冷たい肌。抱きしめられると気持ちよかった。やばい。これはまずい。
「ちょ、ミネアさん、やめ……っ」
「うふ。かわいい」
口が塞がれる。ミネアの長い舌が、俺の舌に絡みついてくる。甘い味がする。
「もう、こんなになっちゃってる。大きい」
俺の下腹部をミネアの手がまさぐる。俺はその手を取った。
「これ以上は……」
「どうして? 我慢しないで……ね、ちょうだい」
駄目だ。これ以上は。戻れなくなる。俺の理性よ、もってくれ!
俺はミネアを引きはがした。ミネアは驚いた顔で俺を見る。
「……どうして? やっぱり、アタシがモンスターだから?」
「そんなんじゃねえ!」
思わず声が強くなってしまった。
「ミネアはいい女だ。ルドルフが惚れ込んだのもよくわかる。正直言うと、我慢するのもつらい」
「じゃ、どうして」
「ここでお前を抱いたら、ルドルフに顔向けができねぇ」
「でも、あの人は、もう」
「帰ってくる!」
「っ」
「あいつは絶対に生きて帰ってくる! あいつが約束を破ったことはねぇ。必ず、ミネアのところに帰ってくる。だから……俺がお前を抱くわけにはいかねぇんだ」
ミネアは黙ってうつむいた。
「……そう、ね。アタシ、どうかしていたわね。ごめんなさい、レオン。でも……」
ミネアは俺を抱きしめた。
「……今夜はこのままで眠らせて。おねがい」
ミネアの声が震えている。俺はミネアの頭を撫でた。
「大丈夫だ。ルドルフはもうすぐ帰ってくるさ。なに、帰ってこなけりゃそん時は……抱いてやるよ」
「約束よ」
「俺も約束を破ったことはないんだ。さ、安心しておやすみ」
ミネアはやがて、静かな寝息を立て始めた。
あぶねぇ。本気であぶなかった。
……惜しいことしたかな。しかし、これじゃ俺、眠れないな。ああ、やわらかくて、いいにおいがする。俺の理性よ、何とか朝までもってくれ。
よほど寂しかったんだな。半年だもんな。ちくしょう、ルドルフめ。殴るの、三発どころじゃすまさねぇぞ。
夜はゆっくりとゆっくりと過ぎていく。つらい!
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