第2話 対決! 2匹のうわばみ

 酒場は異様な熱気に包まれていた。なかなか賑やかだ。中央に人だかりができている。

「また姐さんが勝った! すげぇぇ」

「パネェ! パネェっす、姐さん!」

 俺は人だかりをかき分けていく。テーブルから床に崩れ落ちる男の姿が見えた。

「ぷふぁあ。アタシに挑戦するなんぞ、1万年早いってーの! きゃははは!」

 上機嫌に笑う女性の姿が見える。髪は赤く、とても整った顔立ちの美女だった。胸は大きく、着ている服がパツパツになっている。思わず目が惹かれる。いやそれよりも目をひくものがあった。下半身だ。なんとその下半身は――蛇だった。

 半人半蛇のモンスター、ラミアだ。絡みついた獲物の骨を砕き、捕食するなかなかえげつないモンスターだ。種によっては毒をもつものもいる。人間をぺろりと丸のみする大食漢もいたな。

 よくわからないが、酒飲み対決でもしているらしい。


「ん? そこのアンタ!」

「ん? 俺?」

 唐突にラミアに指さされ、俺は自分の顔を指さした。

「そ、アンタよ。なかなかイイ男だけど、酒はイケるほうかしら?」

「けっ、誰にものを言っていると思ってるんだ」

 俺はテーブルの椅子にどかっと座った。


「あ、あの男は……まさかレオンじゃ」

「そ、そうだ。レオンだ! あの勇者の仲間の!」

「あ、あ、あの……かつてこの大陸中の酒という酒を飲み干し、酒場に壊滅的な打撃を与えたというあの伝説の」

 そんな伝説ができていたのか。

 いやな、この水の大陸で作られる酒はすごくおいしくてな。つい飲みすぎてしまったんですよ。でも、大陸中の酒を飲みほしたなんてさすがにそれはないですよ、うん。


「へぇ、アンタがあのレオンかい。どう、アタシと勝負しない? アタシに勝ったら、なんでも言うことを聞いてアゲル。ただし負けたら……そうね、アタシの下僕にでもなってもらおうかしら」

「ふ……後悔するなよ」

「うふ。楽しみ」

「よし! 誰かこの店……いや町中の酒場から酒もってきやがれ!」

 そして俺たちの周りにはいくつもの酒樽が置かれた。


「あんた、ここまで何杯飲んだ?」

「アタシ、ミネアっていうの。そうね、まだ酒樽2個分ってところかしら」

「よし」

 俺は一気に酒樽の酒を飲みほした。

「ば、馬鹿な! 一瞬で酒が消えたぞ」

「バケモンだ!」

 モンスターよりもバケモノ扱いされる、それが俺だぜ!

「これで条件は同じだな」

「あら、せっかくハンデあげようと思ったのに」

「は、言ってくれるねぇ。それじゃ、やるかい」

「ええ。これで期待外れだったら承知しないわよ」

 誰かの汗が床に落ちた音が合図となり、俺たちは飲み比べ、酒飲み対決を開始した。

 

「あぁぁぁ! 酒が、酒がどんどん消えていく」

「ふ、ふたりともとんでもねぇ!」

「どっちが勝つんだこれ!」

「お、おれはミネア姐さんに全財産懸けるぜ」

「ならおれはレオンだ!」

 外野がぎゃーぎゃーうるさいが、この熱気はたまらないな。久々に燃えてきたぜ。

 しかし、相手もなかなかやる。いくら飲んでも酔う気配がない。ルドルフ並みかそれ以上の酒豪か。おもしれぇ。かたっぱしから飲んでやる。


「うふふふ。やるね、アンタ。なかなか素敵よ。アタシの旦那の次くらいに」

 ミネアは笑う。顔色一つ変わっていない。余裕たっぷりといった感じだ。

 よかろう。俺の秘技を見せてやる。


「ぎゃああぁ! 酒樽2つ担いで酒を流し込んでやがる」

「どうかしてるぜ!」

「やれー! わははは!」

 こうして夜は更けていく。


「よし、次だ!」

「次! はやく!」

 俺とミネアは同時に言った。


「もう、酒がありません~! かんべんしてください~!」

 な……んだと。もう酒がないだと。こいつ、何を言ってやがる。やっと調子が出てきたってのに。

「あらら……残念。どうしましょ」

 ミネアもまだまだこれからといった様子だ。

「くっ! こんな中途半端なところで終わりってのか! くそう!」

 俺はテーブルを叩いた。テーブルは粉々に砕け散る。


「仕方ないわよ、酒がないんじゃ勝負にならないもの。うーん。あ、そうだ。アタシんちで飲みなおさない? 量はないけど、すごくいいお酒あるの♡」


「よし、案内してもらおう」


 あまりの光景に放心する酒場の連中をよそに、俺たちは酒場を出た。



「お、おきゃくさ~ん! お代、お代はー!!!!」

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