第1話 また妖精が現れたのでとりあえずまた投げた

 さて、次は誰に会いに行こうかと旅立ってみたはいいが、居場所が掴めていたのは手紙をくれたカイルと、微かに情報があったダガーくらいなもので、他の仲間たちがどこにいるのかは曖昧だ。なんたってあれから5年経つからな。それぞれがそれぞれの人生を歩んでいるんだ。

 なんかもう、カイルとダガーに会えただけでも十分な気がしてきたが、せっかくの機会だからみんなに会っておきたい。

 もちろん、クインを除いての話しだ。あいつは怖い。本気で怖い。いや、あのエリーゼさんとはまた別の方向性で怖い。クインだけには会いたくないな。適当なこと言って何とか離れられたはいいが……なんとか、俺の寿命が尽きるまで”あの森”で待っていてもらいたいものだ。


 それは置いておくとして、仲間たちがどこにいるのか、情報を入手しなければならない。となれば冒険者ギルドか酒場だろう。

 俺はユード諸島から北のルクイッツァ大陸へとまた船で向かっていた。大陸を渡るには飛竜で飛んでいく、もしくは転送魔法っていう手段もあるが、ここはまぁ、のんびりと船旅を楽しむことにした。

 ルクイッツァは港がかなり栄えている。船での貿易の拠点となり、世界中から様々な品が行き交っている。大陸の中央には水の女神様とやらを祀った神殿があり、周辺の湖の水はとても透き通って綺麗だ。これらのことから、ルクイッツァは『水の大陸』と呼ばれている。


 ここでの出来事を思い出す。

 かつて魔王直属の四天皇の……なんだっけな。名前忘れた。とにかくそいつが瘴気で水を汚染し、それを口にした人々が怪人化する事件が起きた。さらにそいつは水の女神様の封印を解き、自分の力にしようとしていた。そいつはとんでもないやろうで、世界各地の神々の力を得て、魔王を差し置いて自分が世界を支配しようとしていた。俺たちはそれを食い止めるために戦ったんだ。

 こいつがかなりの強敵だった。俺にとっては。水を自在に操るやつで、物理攻撃がほとんど通用しなかった。まだ強い魔法を使える仲間もなく、カイルもまだ力の制御に苦しんでいた時期でもあった。

 水の女神様の封印は解かれてしまい、そいつは瘴気で力を取り込んでしまった。強大になったそいつに対し、俺たちは成す術がなかった。しかし、水の女神様の血を引くという巫女――この後に俺たちの仲間になるアイが、強大な魔力でやつの力を封印し、無力化させることに成功。そして魔剣の力を解き放った俺がやつを真っ二つにして倒したんだ。瘴気は消え、この大陸には平和が戻ったというわけだ。

 アイ。

 そう、アイだ。元気にしているかな。どうしてここまで気にしていなかったんだろう。


「ふむふむ! そんなことがあったんですねぇ! 驚きですぅ!」

「そうなんだよ、色々あったんだよっておまえ」

 ユード諸島であったあの妖精が、なぜかそこにぷーんと浮いていた。やっぱりくさいな!

「お前、俺の心を読むなよ。あ、無事だったんだな、よかった」

「ぶー! ひどいめにあいましたぁ! 人間さん、ひどいですぅ」

 鼻につくしゃべり方だな。においも鼻につくが。

「責任、責任とってください! わたくしをひどいめにあわせた責任とってくださいよぅ」

 バシッと俺は妖精をつかんだ。

 そして――。


「きゃあああああぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 ぶん投げた!

 今度は前よりも強めに!

 

 妖精は空に消えていった。


「すまんな、妖精……だってくさいんだもんよ」

 俺は空に向かって手を合わせた。さらば妖精。お前のことは忘れない。


 さて。行くか。

 海、港といえば、あの男に会えるかな。


 まずは酒場で情報収集だ。

 酒が俺を呼んでいる! ような気がする!

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