第三章 うわばみ!!

大海賊ルドルフ

 オレ様はルドルフ。10の大船団を有する海賊の頭だ。

 7つの海を制覇し、向かうところ敵なしだ。モンスターどももオレ様が来れば恐れをなして逃げていく。もはやこの世界の海は、オレ様のものだ。

 思えばここまで苦難の道のりだった。名が売れれば売れるほど、敵を作った。命の危機も何度もあった。左手、右足を失ったし、仲間も大勢失った。多くの犠牲の上に、今のオレ様はある。


「行くぞ、野郎ども! この世界の全てを手にするのは、オレ様たちだ!」

 歓声が起こる。海が、大気が震える。

「さぁ、新たな伝説の始まりだ! がっはっはっはー!」


「いやぁ。いい船だなぁ。これなら魔の海域も越えられそうだな」

「ふふふ、当たり前だ! この船ならどんな海だろうと嵐だろうと越えられる……って誰だ! てめェは!」

 いつ乗り込んだのかわからないが、やけにがたいのいい男が涼しげに潮風を浴びてオレ様の隣に立って笑っていた。


「あーあーあ、クインめ。派手にやりやがって……一人で全部ぶっつぶしちまうつもりかよ。やっぱ怖いなあいつ」

 男が望遠鏡をのぞき込んで言った。視線の先に見えた船から黒煙が上がっている。敵襲だと……馬鹿な。だが、この程度の奇襲などこれまでも何度も跳ね返してきた。大したことはない。

「てめェ……ここがどこだか、オレ様が誰だか知ってるのか!?」

「あんた、大海賊ルドルフだろ。あんたのじいさんの伝説はよく知ってるぜ。絵本にもなってるもんな。すげーよなー、世界中の海を旅して、色んなお宝を手に入れたんだってな」

「フン! オレ様はその伝説を塗り替える!」

「へぇ、そいつぁ見ものだな。だけどその前にお願いがあるんだ」

「あん?」

「この船、ちょっと貸してくれ。俺たち、魔王倒しにいかなきゃならないんだ。そのためにはこの船が必要なんだ」

 なんだ、この男。何を言っているんだ。理解不能だ。しかし、ただならぬ気配を放つ男だ。一気に畳みかけるか。


「野郎ども! やっちまえ!」

「応ッ!」


 ものの数分。いや、何十秒も経っていないかもしれない。オレ様の子分たちがみんな、のされてしまった。なんて強さだ。こんなことなら副船長を側に置いておくべきだった。

 遠くで激しい爆発音が聞こえた。副船長の乗った船が沈んでいく。なんということだ。これは悪夢か。オレ様の輝かしい伝説が……伝説に……泥を塗るつもりか。


「てめェ!! このオレ様を怒らせたな! 粉々にしてやる!」

 オレ様の相棒――巨大な深紅の戦斧。これで跡形もなく潰してやる。

「うおぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

「あっぶねぇ!」

 男は大剣を抜き、そして……オレ様の斧を受け止めた。ありえない。この斧を受け止められる剣があるはず……いや、受け止められたとして全身の骨が衝撃に耐えられないはずだ。

「おいおい! 船が壊れるだろ! まったく、せっかくいい船見つけたってのに、壊れたらたまったもんじゃねー!」

「この野郎っ! 馬鹿にしやがって!」

 こうなれば奥の手だ。こればかりは使いたくなかったが、四の五の言っていられない状況のようだ。これはあのドラゴンの鱗ですら切り裂く、オレ様のとってお……き。


 オレ様の視界が暗くなっていく。

 かすかに、青い空が見えた。


「おい、クイン! なんてことするんだよ!」

「だいじょうぶ。急所は外した」

「そういう問題じゃねぇよ。おっさん、矢だらけになってるじゃねーか! しかもあーあ、あちこち船沈めやがって! せっかく食糧もいただいておこうと思ったのに!」

「……レオン様、嬉しくない? レオン様嬉しくないと、ボク、悲しい。泣く」

「ホントに泣くんじゃねー! ああ、もう、めんどくせー! カイル、はやく来てくれー!」


 意識を失う前。そんなやりとりだけが耳に残った。



 こうしてオレ様の新たな伝説は、始まる前に終わりを告げた。


 しかしその後、魔王を倒した勇者の仲間として、オレ様の名は世界に轟くことになるのであった。

 勇敢なる海の男。海の王者ルドルフ。

 

 オレ様の名はながくながく後世に語り継がれる伝説となるのであった。


 まぁ、いっか!

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