第7話 またな、親友

「それから2年。僕とエリーゼにとって、それはかつてない濃密な時間となった。具体的には――」

「まてまてまてまてまてまて。もういい、もういい」

 まだまだ語ろうとするカイルの言葉を俺はさえぎった。なんていうか、もう、おなか一杯だってばよ。というか理解が追い付かない。なぜそうなった? 何が起こってこうなった。ドラゴンと人間が結婚? 夫婦になった?


「やっぱり、変かな。これって」

「いや、変というか……悪い、ちょっと落ち着かせてくれ」

 あまりにも唐突な展開。だが、これは夢でも悪い冗談ではないらしい。しばらくすると、なんだか笑いがこみ上げてきた。

「ど、どうしたレオン」

「いや、やっぱお前はスゲーなって思っただけだ。なんたって、世界最強の存在を射止めちまうんだもんなぁ……うん、いいと思うぜ、俺は」

「え?」

「話している時のお前、幸せそうだったもんなぁ。他のヤツはどう思うかわからないけれど、俺は祝福するぜ。おめでとう、カイル」

「あ、ありがとう。レオン」

「俺はお前のことを信頼している。お前が成すことに間違いはねぇよ。エリーゼさんと幸せに暮らすんだな」

「ああ。言われなくてもそうするつもりだよ」

 俺とカイルは笑った。その目には以前のような陰りはない。ようやく――ようやくお前は、見つけたんだな。お前の居場所を。うらやましいぜ、カイル。


「そうだ。あ、あのぅ、エリーゼさん?」

『なんだ?』

「大変恐縮なのでありますが、ええと、人間の姿になってみてもらえませんかね? カイルの前で過ごしている姿に」

『よかろう』


 一瞬にして、ドラゴンの巨体が縮み、それはそれは美しい女性の姿に変わった。

 これは……この姿は――なるほどな。

「レオン?」

「いや、あんまり綺麗なもんだから、見とれちまっただけだ」

「そうであろう」

 エリーゼさんは得意そうに鼻を鳴らした。

「エリーゼさん。こいつをよろしくお願いします。ってこれも言うまでもないか」

「うむ。よろしくやっておるから心配無用」

 エリーゼさんは嬉しそうにカイルを見ている。しっかりと愛を育んできたんだろうな。その顔はすっかり恋する女性だ。

 種族を超えた愛、か。理解がまだ追い付かないけど、すげーな。うん、とにかくすげー。


「それじゃ、俺はこれで失礼するぜ。2人の邪魔しちゃあ悪いしな」

「もう少しゆっくりしていってくれよ。積もる話もあるだろうに」

 いやいや。なんていうかね。後ろのエリーゼさんの視線が突き刺さってくるんですよね。早く帰れ言ってる。

「あ、一つだけ聞いておきたい。なんであんな結界を張っていたんだ?」

「我らの愛の巣を荒らされたくないだけだ。まぁ、ここに立ち寄るものなどごくわずかだがな」

 愛の巣ときましたか。

「それもあるけど、念のためかな。”王”をうまく欺けたとは思うんだけど……。エリーゼがいるとはいえ、面倒ごとは極力避けたいしね」

「そうか。いや、また来るときに不便だなと思っただけだ」

「ふん。仕方ないからお前が触れたときには通れるようにしておいてやる。ありがたく思え」

「あ、はい」

 肌がぴりぴりする。怖い、怖い。


「それじゃあ俺は行くぜ。良かったぜ」

「僕もだよ、レオン。本当に……来てくれて、ありがとう」

「カイル。忘れるなよ。何があっても、俺はお前の味方だ。お前に何かあれば、俺は必ず駆けつける」

「……レオン」

 あの日立てた2人の誓いだ。

 何が起きても絶対に裏切らない。苦しい時には助け合う。だって俺たちは――。


「親友だろ」

「……ああ!」


「それじゃあ、またな! 親友! 今度来るときには子供の顔でも見せてくれ!」


 うん?

 勢いで言ってしまったけれど、人とドラゴンの間に子供ってできるのか?

 いやいや、どう考えてもできないよな。うん、そうだよな。


 手を振って見送ってくれるカイルとエリーゼさんの胸を抉るような鋭い視線を受けながら、俺は再び旅に出た。


 さて。次は誰のところに行こうか。

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