ある男の日記

ゆわか

ある男の日記

我が祖国は、武器の輸出で国庫を潤していた。

武器を売るために、国同士を争わせる工作も頻繁に行っており

他国から見れば、滅んで当然の国だったであろう。


だが、その国に生きる人々は、他国のそれと変わりはなく

実直で心優しい者も多く暮らしていたのだ。

私の息子もその一人だった。


彼は秘密裏に、第2王子率いる革命軍に所属し

祖国をより良い方向へ変えようとしていた。


芯の弱い私は、国の言いなりになって働くしかなかったが

ひそかに期待していたのだ、祖国が生まれ変わるその時を。


あの運命の日。

私は仕事で他国を訪問していた。


祖国が海に沈んだと知ったのは、何日も後のことだった。

一体なぜ、祖国は滅んだのか? 答えられるものはいなかった。

その場に居た誰一人として、難を逃れることができなかったことを物語っているように思われた。


祖国の後ろ盾を失った私は、路頭に迷うことになったが

そんなことはどうでもよいことだった。

私は祖国を、家族を、友人を、全てを失った。

悲しみにくれ、怒りのやり場を捜し歩いた。


すぐにも、祖国のあった場所を訪れたかったが

それをかなえるにも年月が必要だった。


交通手段がない、という単純な話だ。


一夜にして国が沈んだという怪異の海に、船を出してくれる者など

そうそう見つかるものでもない。

大金でも積まない限りは。


もちろん、ことの真偽を確かめるため、各国が調査団を派遣したはずだ。

命知らずな冒険者も多く参加したと聞く。


だが、私はそのどの船にも乗ることができなかった。

私がそれを知ったのが、すでに調査が終わった後だったからだ。


私はなんとか、船を手に入れ大海へ漕ぎ出した。


我が祖国のあったはずの座標には、何も存在しないように見えた。

陸地はおろか、小島や岩場、わずかな何かしらの現象すら見受けられなかった。

本当に、ここに国があったのか?

場所を間違えているのではないか?


あきらめきれず何日も、この海域を探索した。

ある日のことだ。

小さなバルコニーが、たたずんでいるのを発見した。

何度も通った場所のはずだが

なぜあれほど目立つ建造物を見つけられなかったのか。


あれは王城の一部だろうか? いや違う気がする。


考える間に、人影が現れた。

なぜ侍女の装いをしているのかはわからないが

あれは、正妃に間違いない!

では、息子や国民はみな無事なのか!?


正妃の言葉は、私の希望を粉々に打ち砕いた。

神罰が下り、国は滅び

生き残ったのは、正妃一人だというのだ。

ああ、神とはなんと無慈悲なのか!


私は、呪うことしかできなかった!

我らの過ちを許さなかった、神を!

神を呼び覚ました、異国の王子と王女を!

民を見捨て、一人のうのうと生き残った正妃を!


そして・・・何より無力すぎた自分を!

私は、その全てに復讐することを誓ったのだ。


                   ■/■/■ 記

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