立花「誰がダチ公だ」

『バーベキューなんてどう?』

 という高崎先輩の提案はあったものの、夕飯はカレーに決まっていた。

 シャワーをひと浴びして着替えた俺たちはキッチンに集結した。1階の大半を占めているであろうリビングダイニングキッチンの端、ポンと置かれたような調理台は白を基調としたスタイリッシュなものだった。

「カレー作り、スタート~」

「「「「おー!」」」」

 高崎先輩の掛け声でスタートしたカレー作り。特に役割分担を決めていたわけじゃなかったが、霧島と稲佐が中心となって進んでいった。

「よし、これで完成ね」

 味見をした先輩が、満足そうにうなずいた。


「「「「「「いただきまーす」」」」」」


 家を貸してくれているおじさんも含めてテーブルを囲む。おじさんはしきりに「おいしいね」と褒めて、気付けば3杯分平らげていた。見た目は普通のサラリーマンなのに、どこに消えていったんだ……?


「「「「「「ごちそうさまでした」」」」」」


 皿洗いは俺と稲佐で引き受けた。というのも、女性陣が軒並み遊び疲れて眠そうだったからだ。皿洗いをしながらダイニングとリビングを見ると、テーブルやソファに女性陣が伏せていた。

「終わりましたよ」

「ごめんなさいね、任せちゃって」

「いえいえ」

 先輩はソファの背もたれから頭のてっぺんを覗かせただけだった。

 晩飯の後は「第3回ゲーム大会」と称して遊ぶ予定だったが、この調子だと無理そうだ。稲佐に横目で確認をとる。

「もう寝るか」

「しょうがないな」

 ゲーム担当(俺が勝手にそう思っているが)の稲佐は、肩をすくめた。

 女性陣が部屋に戻ったのを見届けて、俺たちも部屋に入った。寝ることにしたとは言え、そこまで疲れていない俺たちは時間潰しにトランプを始めた。だが、二人というのは少なすぎた。じきに飽きてやめ、二人してスマホをいじりだした。

 椅子に座っていた稲佐が、ベッドに寝転がる俺を振り返って聞いてきた。

「明日って、何するんだっけ」

「お前なぁ、覚えてねーのかよ……」

 体を起こして、稲佐に向き直る。

「明日は昼前までに支度を済ませて帰宅、だ」

「ええええええええええ!?」

 不意に俺の鼓膜を襲った大音量に、思わず耳を覆った。

「うるせえ。何時だと思ってんだ」

 時計を見ずに、稲佐は即答した。

「10時だな」

「そうだ。良い子はもうおねんねの時間だぞ」

「悪いな。俺はただの良い子じゃないんでね」

 キラッ。そんな擬音語が出てきそうな感じで歯を光らせたが、イケメンでもない稲佐がしてもただカッコつけて失敗したようにしか見えず、つまりただの残念な子になっていた。

「悪い、俺の認識が間違っていた。お前は悪い子だから永眠する時間だ」

「美少女と寝れるなら考えてやってもいいぜ?」

「お前の言う美少女なら隣の部屋にいるが、一緒に寝てくるか? もれなく永眠できると思うぜ」

「そうだな……霧島さんの隣で寝てくるか」

「お前、死に場所くらいは選んだ方がよくないか? ベッドに入る前に殺されるぞ」

 などと言っていたら、稲佐が大きなあくびをした。どうやら稲佐も限界らしい。

「もう寝るか」

「そうだな」

 半袖短パンの状態で、もぞもぞとベッドの中に潜り込む。すぐに稲佐も入ってきた。俺は声に心底嫌な気持ちを乗せて言った。

「いくらダブルベッドとは言え、お前と一緒の布団で寝ないといけないなんてな」

「そう言うなよ、ダチ公。オレとお前の仲だろ?」

「誰がダチ公だ。まったく……」

 部屋の明かりを消すとすぐに、静かな寝息が背後から聞こえてきた。

「寝るの早いな、お前」

 半ば独り言として言ってみたが、やっぱり稲佐は寝てしまったらしい。

(俺も寝るか……)

 目をつぶればすぐに睡魔はやってきて、俺を深い眠りへと誘った。


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