人々の負の感情により復活する魔王、最後の日
世界は魔族に支配されていた。
過去に勇者の手によって滅ぼされた魔王ガラパゴスは人知れず復活を果たし瞬く間に人間の世界を制圧したのだ。
人類の抵抗もむなしく数日の間に多数の人間が殺され、生き残った人々も奴隷の様な扱いを受ける破目になっていた。
そんな中、魔王ガラパゴスの復活と共に1人の冒険者に変化が起こっていた!
勇者覚醒!
その謎のスキルを得たハヤテは人ならざる力を持ち勇者として覚醒した。
またその仲間であった戦士ガイ、賢者マリアの二人にも勇者の加護が備わっていた。
だが多勢に無勢、3人の強者が生まれたところで世界で同時に発生した魔物の襲撃は防げる筈も無かった。
3人は話し合い最後の大逆転を行なう為に魔王ガラパゴスの居る城へ特攻を行なった。
そして、遂に魔王ガラパゴスと決戦の火蓋は切って落とされた!
1時間にも及ぶ死闘、その中で3人は確信していた。
「「「勝てる!」」」
ほぼ力は拮抗していたがアイテムを使って回復を行なえる3人の方が手数の点で有利だったのだ。
その証拠に徐々にではあるが魔王ガラパゴスを押し始めた。
「くくくく・・・見事だ此度の勇者よ、我が前に立ち塞がりここまで追い詰めるとはな」
「魔王!貴様は今ここで滅びる運命なのだ!」
チラリと天井に視線をやった魔王ガラパゴスは口元を歪めて凶悪な笑みを浮かべる。
見た目は人間と同じタイプの魔族である魔王ガラパゴスは致命傷と呼べる怪我は無いが余裕が見せれる程の状態ではなかった。
にも関わらず余裕の表情に寒気を感じた3人は動きが止まっていた。
「お前達に教えておいてやろう、我が肉体は人間が我や魔物に対して恐怖などと言った負の感情を向けられる度に強化される。例え滅ぼされても人間が負の感情を我に持つ限りいつかまた復活するのだ」
「だからと言って今お前を倒さねば人類に未来は無い!」
戦士ガイが叫ぶ!
着ている鎧の隙間から流れた血の後が銀色の鎧を赤く染めていた。
魔法と回復薬で無理矢理治し続けた体は限界が近かった。
それでももう少しで魔王が倒せると自己暗示をかけて無理矢理動かし続けていたのだ。
「先代の勇者様がそうした様に再び貴方は討伐されるのよ!」
賢者マリアが叫ぶ!
純白だったローブは汚れ破れボロボロになっている、彼女もまた魔力回復薬を中毒症状を起こすほど服用していた。
それでも尚、彼女もまた限界を超えて立ち続けていたのだ。
「くくくく・・・はははは・・・はーっはっはっはっはっ!!!」
「「「なにがおかしい?!」」」
「いやいや、すまんな此度の勇者よ。アレに気付いていたか?」
魔王ガラパゴスが指差す先には目玉に羽が生えた魔物が天井付近に止まっていた。
危険を感じないので強い魔物ではないと直ぐに分かるのだが、魔王の言葉が気になる勇者ハヤテは握り締めた剣を魔王ガラパゴスに向けて力をこめて叫ぶ。
「あの魔物が一体どうしたっていうんだ?!」
「あれはな、見た映像を遠い場所へ転写できる魔物でな、実は今までのお前達との戦いは全世界の空に上映されていたのだ」
「なっ?!」
「配下の者に伝えて我等の戦いは生き残った人間に見させているのだ」
魔王ガラパゴスの言葉で賢者マリアは理解した。
その映像を生き残った人間が見て魔王が勝った時、人間は絶望のどん底へ突き落とされるのだ。
最後の希望と呼ばれる勇者達で勝てなかったと言う証拠が誰の目にも明らかになると言うわけだ。
そして、今現在も魔王の姿や言動を見て恐怖を感じ取ればそれは魔王の力となる。
「そして、お前達はさっきこう叫んだよな?『勝てる』っと。残念な事に我の真の姿を見る前にそう信じてしまったのなら誤解を与えてしまったな」
「ど・・・どういう事だ?!」
「簡単なことだよ勇者、我が真の姿に戻ればその力は10倍以上になる!」
「「「っ?!」」」
驚くのも無理は無い、今の状態でやっと拮抗した実力となっているのに更に強くなられたら・・・
だが魔王ガラパゴスは気にも止めずに叫ぶ。
「絶望の底に沈め勇者!我の真の姿!刮目して見よ!!!」
そう叫んだ魔王ガラパゴスの体からとんでもない魔力が溢れ出す。
正直目の前に居るだけで恐怖で滝の様な冷や汗が止まらない3人。
威圧をかけられた訳でもなく、体から毀れる魔力だけでそうなってしまったのだ。
「変身!!」
魔王ガラパゴスは真上へ飛び上がると同時に叫んだ。
空中でその体は光に包まれ姿が変わっていく・・・
体が全体的に盛り上がり腕が肩から生えていく・・・
背中には巨大な羽が2枚広がり皮膚の色が緑に変化して鱗の様になっていく・・・
人化したドラゴン、それを想像させるのが最も近いかもしれないが腕が4本の時点でまさしく化け物である。
「くくくく・・・先代勇者は我がこの姿になる前に我を倒して見せた。光栄に思うがいい、これがこの世の最強の存在だ!」
凶悪な魔力の波が周囲に広がり威圧を何倍にも増幅したものが世界に広がった。
遠く離れていてもその恐るべき魔力は感じ取れるほど魔王ガラパゴスの力は強大になっていたのだ。
「くくく・・・恐ろしさの余り声も出ないか、その身で我の真の力を味わい朽ち果てるが良い!」
「か・・・」
「ん?どうした?言い残す事があるのであれば聞いてやろう」
全身に鳥肌を立て立ち尽くす勇者ハヤテはゆっくりと口を開き・・・
「かっけぇええええええ!!!!」
「えっ?」
「すげぇええええまじかっけぇえええええ!!!何魔王お前すげぇよ!!」
「ふ・・・ふんっ悪く無いわね、別に見惚れていたわけじゃないだからね」
「真の芸術とは見た者の時まで止めてしまう物なのか・・・」
賢者マリア、戦士ガイの二人も魔王へ向ける視線は明らかに先程までと違っていた。
「お、お前達一体何を???」
困惑する魔王、だがこの光景を見せられている世界中の人間達も魔王の真の姿に感動していた。
「ををををを・・・我々は間違っていたのかもしれない」
「魔王・・・何故こんなに心を動かす存在なのか・・・」
大人達は感涙の涙を流し子供達はまるでヒーローを見詰めるように魔王を応援し始めた。
最初は魔王の偉大さを理解したのだと魔物達は納得していたのだが明らかに異様な雰囲気を感じ始めていた。
「魔王、俺達が間違っていたのかもしれない・・・可愛いと格好良いは正義なんだ」
「勇者、君頭の中が大混乱してるよ」
呆気に取られた魔王は言葉遣いまでも変化していた。
それもその筈、恐ろしいまでの魔力は飛散し変身前程にまで低下していたのだ。
そして・・・
「ぐ・・・ぐぉぉおおおおお、な・・・なんて事だ?!」
変身が自然と解けてしまったのだ。
「くそっならばこれならばどうだ!変身!」
再び体内の魔力を膨れ上がらせて変身する魔王ガラパゴス!
先ほどの様な化け物ではなく人型で闇の衣をその身に宿した姿へと変化した。
暗黒闘士という名前が似合いそうなその姿、そして闇が集まり武器の形を作っていく・・・
その数6!
剣、槍、斧、杖、鎌、爪
闇が形作った巨大な武器が宙に浮かび魔王の背後にセットされる。
「待たせたな勇者よ、これが我のもう一つの真の姿である!」
「めっ・・・」
「め?」
「メッチャいかすぅうううう!!!!」
「伝説の英雄をその身に宿したような造形、見事である!」
「べ、別に私は格好良いとか思ってないからね、ちょっとは目を奪われたけど・・・」
3人共ベタ褒めであった。
そして、その映像を見ている人々も・・・
「なにあれすげぇえええ!!!」
「ありがたやありがたや・・・」
「バーーブーーー!!!」
人々だけでなく赤子にまで大人気であった。
そして、再び魔力が飛散し魔王は元の姿へと戻る・・・
「ぐ・・・ぐぁああああああ、何故だ?!何故こうなる?!」
「頑張れ魔王!もう一度俺達にあの勇姿を見せてくれ!」
「真なる芸術!わが生涯に一片の悔いがあるとすれば全てを見れない事か?!」
「見せたいっていうのなら別に見てあげても良いわよ」
何故か勇者達から応援される魔王、その映像を見ている人々も魔王の更なる変身を期待して輝く目でヒーローを見るようになっていた。
その結果・・・
「ぐ・・・ぐぉおおおおおおお!!!まさか我の策略を逆に利用するとは!!!!見事だ勇者よ!!!!!」
「ま、魔王!!!!」
「だが我はいつかまた必ず蘇る!そう、人類が我への恐怖を持ち続ける限り・・・」
「待ってるぞ!俺が死ぬまでには戻ってくれよ!」
「もう一度変身を見せに戻ってきなさいよね!」
「ぐあああああああああああああああ!!!!」
そうして魔王は魔力の飛散と共にその体までも霧となって散っていった。
その瞬間人間を拘束していた魔物達はその力を奪われ一気に弱体化する。
捕らえられていた人々の反撃が始まり形成は一気に逆転するのであった・・・
「めでたしめでたし、おしまい」
「おかーさん、僕達も魔王様見れるかな?」
「ん-?どうかな?皆が魔王様の変身を見たいって神様にお願いしたら見れるかもね」
「うん!僕達魔王様が蘇るのを祈って寝るね」
年配の賢者マリアは孫の部屋を出て行く。
窓から見える空を見上げながら呟く・・・
「あそこに映し出された映像をもう一度再生する事が出来るなら良かったのにね・・・」
完
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます