魔王との最終決戦でよくある魔王の要らん事

ここは魔王に支配された世界。

魔族とそれ以外の種族の全面戦争が数十年続くその世界で命運を分ける戦いが今始まろうとしていた・・・


魔王城の魔王の間まで辿り着いた4人が居た。

人間の男である勇者、ドワーフの男である鍛冶戦士、エルフの女である精霊術士、精霊族の女である聖女。

既に全員ボロボロで魔王の部屋に辿り着くまでに何人もの仲間が力尽きていた。


「遂にここまで来たな、残すは魔王のみだ!」


勇者が聖剣を杖にしながら巨大な扉を見詰める。

口調は強いがとても戦える状態ではなかった。

それは他の3人も同じである。

だから鍛冶戦士と精霊術士は互いを見合い頷いた。


「勇者と聖女、聞いて」

「なんだ?」


エルフの精霊術士が着ている服を脱いだ。

全身痣だらけで痛々しいが美しいその体は回復薬の使いすぎで歪に骨格が変形しているのが見て取れる。

傷は直ぐに癒えても折れた骨は綺麗には繋がらないのだ。

そして、胸の谷間に在るペンダントを手に取り謎の呪文を唱える・・・

その横で片腕を無くした鍛冶戦士のドワーフも収納袋から一本の剣を取り出した。


「聞け、俺たちはもう戦える体じゃない・・・だから後はお前達に託す事にした」


そう言って鍛冶戦士はその剣に、エルフはペンダントに全魔力を注ぎ込み始める。

見る見る魔力が込められたそれらは伝説級を超えた神話級のアイテムへと変化していく・・・

鍛冶戦士が自ら作り出したその剣はアダマンタイトを超えるアダオクタイトを更に超えるアダチョウタイトの更に上のアダケイタイトと言う鉱石で作られた奇跡の剣。

それにドワーフの一族に伝わる命のエンチャントを行う事で聖剣を超える剣を生み出そうとしているのだ。

またエルフのペンダントも過去のエルフの多数の命が注ぎ込まれた幻のアイテム。

エリクサーを超えたエリジュウサーを超えたエリジュウイチサーを更に超えたエリジュウニサーを更に超えようとしている・・・

そうして2人の命と引き換えに作られた2つのアイテム・・・


『破邪剣聖邪滅金剛神話次元崩壊究極無限剣』と『エンドレスハイパーミラクルウルトラデンジャーストーン』へと進化した。


それを2人に託す・・・

勇者は鍛冶戦士から預かったその呪われた剣を手に取る・・・

剣の呪いにより解呪を行なわないとその剣は手から離れる事は無く呪いを解けば消え去る幻の剣。

片手に聖剣、片手に幻の呪われた剣を手にした二刀流の勇者にエルフがペンダントを与える。

まるで溶け込むように体内にペンダントは入り勇者の全身をその力が駆け巡る。

沢山のエルフの命が注ぎ込まれたそれは同じく呪いとなり勇者の寿命は果てしなく伸びると共に身体能力を強化し傷を完全に癒した。


「二人共・・・」

「あとは・・・」

「頼んだわよ・・・」


そう言ってエルフとドワーフは糸が切れたように事切れた。

その場に残された呪いに包まれた勇者とそれを見詰める聖女・・・

そして、意を決して聖女も勇者の背中に手を添える・・・


「勇者、私も・・・」

「ま、待て!国へ戻って俺と結婚するんだろ?」

「ううん・・・もう私も駄目みたいだから・・・」


聖女はずっと隠していたのだ。

自らの使う魔法が寿命を削って使用する魔法だという事を。

ここへ至るまでに数々の魔法を使用して既に自分の寿命が残り少ない事を聖女は理解していた。

だからこそ聖女は魔王との戦いに足手纏いになるのを嫌い勇者に全てを託す事にしたのだ。


「だから受け取って、私の命はずっと貴方の中に残るからね」

「・・・あぁ・・・・」


勇者は振り返らない、決心が揺らぐのを恐れているのだ。

聖女の事を心の底から愛しているからこそ勇者は彼女の気持ちを受け止めたのだ。

そして、背中から注ぎ込まれる数々の聖女の補助魔法・・・


「暖かい・・・ありがとう聖女」

「絶対勝ってね、負けたらあの世で責任取らせるから・・・」

「はははっ・・・それは怖いな・・・」


涙で前が見えない、だが弱々しくなっていく聖女の声が現状を表していた。

精霊族は魔法を使い果たしたら消滅する。

それは常識であり聖女も同じである。

魔力を回復するアイテムは全て使い果たしこの場で彼女を助ける方法は無い。

だからこそ勇者はそれ以上何も言わず何も行なわなかった。

今すぐに振り返り彼女を抱き締めたい。

だが自分をここまで繋いだ全ての人の気持ちを考え勇者は振り返らない。


「先に行っていてくれ俺もいつかそっちに行くから」


返事は返ってこない。

既に聖女は消滅したのかも分からない・・・

だが勇者は目の前の巨大な扉しか見なかった。

振り返らない、勇者の歩む勝利への道は決して綺麗な物では無いのだ。

そのまま扉を押し開ける!


「来たか人間族の勇者よ・・・」

「魔王、全ての種族を代表してお前をここで倒して世界を救う!」

「ククク・・・我が前に立つ程の者だけは在るな」


勇者の前で立ち上がる巨大な体を持つ魔王。

暫し最後の戦いの前の会話が始まる。

種族同士が互いに争い続けた日々の事を語る魔王であるが、勇者はそれら全てが魔王の勝手な考え方である事を理解した。


「つまりお前が怖いから世界を支配したんだな?」

「あぁそうだ。俺は1人だけ強くなりすぎたのだ。だからこそ俺に届き競える存在が欲しかった」


世界を支配した理由、それが自分と言う存在の為だと知らされ勇者は怒りに染まった。

ただ競い合える強さを持つ者と戦いたいという理由のみで数百万もの命が散ったのだ。


「絶対に許さん・・・魔王覚悟!」

「ふふふ、私に生きている実感を感じさせてくれよ!勇者!全力で掛かってくるが良い!さぁ共に演ろうぞ!」


そう言って魔王の手から光が勇者を中心に広範囲に降り注ぐ・・・

勇者はそれを浴びて理解した。


「さぁ、回復してやるから全力で掛かってくるがい・・・い・・・?」

「な・・・なんて・・・なんてことを・・・」


それは究極の回復魔法である『ファイナルキュアリミテッド』を更に超える奇跡の魔法であった。

範囲内の種族を関係なく全ての者の体力、魔力、怪我等全てを癒し付随された呪い等も全て解除する魔法・・・

勇者の片手から鍛冶戦士の剣が消滅し体内からエルフのペンダントが消失し全身から聖女の魔法が解除された・・・


「あれっ?弱く・・・なった?」

「み・・・みんなの・・・みんなの命が・・・」


震える勇者、それはそうだろう。

肩を震わせる勇者に近寄る魔王・・・


「あっ・・・なんか・・・その・・・ごめん・・・」

「ご、ごめんで・・・ごめんで済むかー!!!」


そう叫んで勇者は片手に持っていた聖剣を魔王の腹部へと突き立てた!

だが・・・


「いや、本当悪いと思ってるのよ。まさかこんな事になるとは思って無くてさ・・・」

「な・・・?!」


聖剣が刺さったのに全く気にもしていない魔王の手が勇者の方に触れる。

巨大な手は優しくその肩を撫でた。

それだけで勇者は悟った。


(勝てない・・・これは無理だ・・・)


その存在の差、それらが全て勇者の本能に勝てない事を知らせていた。

だが、ここまで導いてくれた仲間の為に自分が諦めるわけには行かない!

そう考えた勇者は最後の手段に出た!


「うぉぉおおおおお!!シャイニングボルテックサンダー!!!」


それは勇者の全ての魔力を聖剣から放つ放電魔法!

魔王の腹部に突き刺さった聖剣から魔王の体内に魔力の濁流が暴れまわりながら放出される・・・

だが・・・


「なぁ、機嫌直してくれよ。俺が悪かったって、なっ?ど、どうだ?お詫びにお菓子でも食べないか?」

「・・・」


まるで痛みすらも感じていない魔王の様子に勇者は完全に心が折られる・・・

こうして勇者は魔王の部屋でお菓子を頂き魔王の部屋を後にする・・・

入り口に倒れていた筈のエルフとドワーフの死体は魔族が回収したのかそこには残っておらず魔族の馬車で近くの町まで送られた勇者・・・


『また遊びに来てくれよ、ホラッお詫びってわけじゃないけど俺達もう友達だろ?』


その魔王の言葉を頭の中で繰り返し聞き続ける勇者・・・

後に魔王を説得し、友達として世界平和を誓わせるのに至るのはまた別の話・・・

勇者・・・それは世界を支配していた魔王を説得し世界平和を成し遂げた男の名前として語り継がれるのであった・・・




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