婚約破棄された令嬢は溜め息を吐いて告げる

「シルフィ・アルデミオン!今この時をもって、貴様との婚約を破棄する!」


舞踏会の会場に響き渡るイリシアン王国第二王子、ガイル・イリシアンの声に会場中の人の視線が集まる。

ダンスや会食を楽しんでいた人々の注目の中、ガイルは寄り添っていたルビー色の髪をした少女を抱き寄せる。


「その上で私はこの女性、スカーレット・ハルマ男爵令嬢を妻に迎える事を宣言する!」

「ガイル様!私嬉しい!」


スカーレットと呼ばれた女性がガイルに身を預けると周囲を警備していた兵士達が一斉に拍手を行なう。

まるで示し合わせていた様なタイミングに何もいえない私は何とか口を開いて告げる・・・


「ガイル様、私達の婚約は私達が生まれる前から王家とアルデミオン公爵家の間で交わされていた筈ですが・・・」

「黙れ!貴様がこれまで行なってきた悪行の数々は既にスカーレットから聞いている!」

「悪行?」


何をこれから言われるのかちょっと楽しみになりながらもしらばっくれて見ましたが心当たりがあるとすれば・・・


「しらばっくれるな!貴様がスカーレットに対して行なった様々な嫌がらせ!更に裏で他の派閥の貴族と組んで王家転覆を狙っているのは既に分かっている!」

「は?」

「全てはこのスカーレットが話してくれた!故にお前はこの場で捕縛される運命なのだ!」


そうガイルが言うと周囲の兵士達がシルフィの身柄を拘束しようと近付いてくる。

だが・・・


「触るな!私を誰だと思っている!」


シルフィの怒声に兵士たちは一瞬ビクッと反応を示し捕まえようとしていた手を止める。

だがそれを鼻で笑うガイルはそれを取り出した。


「シルフィ、今日は私の成人祝いのパーティだ。本来ならここでこれをお前に渡して永遠の誓いをするのが習わし・・・」


ガイルの手にあったのは王家に伝わる誓いの指輪。

永遠の愛を誓い合った者同士が指に装着すると二度と外れなくなり共に人生を歩めるように命が繋がる指輪。

片方が病に掛かろうとももう片方の体力や生命力が巡回し互いを互いが治す奇跡の指輪。

その効果は死ぬその時まで続くある意味呪いとも言えるモノである。


「私はこの場でこれをスカーレットと交わす事で永遠の愛を誓わせて貰おう!受け取ってくれるかスカーレット?」

「はい!ガイル様!」


ガイルはスカーレットにその指輪の1つを渡しスカーレットの指に指輪を通そうとする・・・


「あっちょっと・・・」


シルフィが止めようとするが聞く耳を持たず二人っきりの世界に入り込んでいるガイルはそのままスカーレットの指に指輪を通した。

指輪は一瞬煌めいてまるで根を張るようにスカーレットの指に同化する様に変化した。


「それでは私にも・・・」

「どうぞガイル様・・・」


今度はスカーレットがガイルの指に指輪を通す。

同じ様に一瞬煌めいてガイルの指にも指輪は同化した。

それと共に一斉に拍手が上がる。

兵士だけでなくこの場に招かれている客全てがグルなのだ。


「はぁ・・・」


私は溜め息を吐く、どうしようもないこの現状に呆れるしか無いのだ。

その時会場のドアが開かれた!


「シルフィ様!遅くなり申し訳ありませんでした!」

「全く・・・手遅れよもう・・・」


飛び込んできた一人の冒険者、それはシルフィの家で専属護衛を任せられているSランク冒険者デロスであった。

その手に抱えられている物を見て手遅れながらシルフィは行動を起こすことを決意する。


「いいわ、そこで使いなさい」

「分かりました!ラーの鏡よ!この場の真実の姿を映し出せ!」


掲げられた鏡から光が走り会場を照らした!

すると驚く事が起こった。

シルフィを取り囲んでいた兵士の半分が魔物に変化したのだ。

そして、ガイルが抱き寄せていたスカーレットはその体を巨大化させ正体を現した!

一つ目のピンクの巨人の女、サイクロッメスである!


「う、うわぁあああああああ!!」

「あらダーリン私の全てを見て驚いたの?」


その場から這って逃げようとするガイルであるがサイクロッメスはそんなガイルを両手で捕まえて頬ずりしだす。

余りの恐怖に真っ青になるガイルにまた一つ溜め息を吐きながらシルフィは告げる。


「デロス、やっておしまい」

「イエス、マイロード」


目にも止まらぬ速さでシルフィの周囲に居た魔物だけを一瞬で細切れにしたデロスの動きの風圧だけで他の兵士達も後ろへ転がる。


「それでどうしますか?」

「私がやるわ」


そう言いシルフィはドレス姿のままサイクロッメスの前に立ちはだかる。


「あら?貴方にはもう様は無いのよ、さっさと逃げたらいいわ。私はダーリンとこの指輪のお陰で運命共同体、もう離れることは出来ないのよ」

「そうでしょうね、だから彼と一緒にずっと居たらいいわ」


シルフィは両手を胸の前で組んで印を結んでいく・・・


「臨・兵・闘・社・会・人・辞め・たい・です!」


シルフィの手から光が走りサイクロッメスに捕まれているガイルを包み込む。

そして、光は何かと共に飛散した。


「終わりました。魔物よ良く聞きなさい、貴方が手にしているのはもう王族でも誰でもないただの人間です」

「なに?」

「私の力でその者の存在をこの世から消去しました。この世界にその人間を知るものはもう居ません、しかし貴方とその人間は運命共同体どうします?」

「・・・」


そこまで言ってサイクロッメスは理解したのであろう、私が誰なのか。


「くそっくそっくそぉおおおお!!!!」

「1人で着替えすらも出来ないその男と末永くお幸せに」


サイクロッメスは会場の壁を突き破って走り去る。

場は静まり返り他の客達が震えながらこっちを見ていた。


「お騒がせいたしました。それと終わりましたよシルフィ様」

「ありがとうございます」


後ろから出てきたのは本物のシルフィ・アルデミオン令嬢であった。

彼女だけにはガイルの記憶が残っている


「はぁ、髪型と髪の色を同じにしただけで分からなくなるなんてね・・・」

「男なんてそう言うものですよ」


チラリと視線をやるとデロスがビクッと反応する。

その様子を楽しそうに見る偽シルフィは縛っていた髪を解いた。


「それでは私はこれにて」

「もう一度お礼を言わせて貰うわ、ありがとう」

「いえいえ、報酬さえ頂ければ私は構いませんよ。それではデロスさんもごきげんよう」


そう言ってサイクロッメスの空けた穴から外へ走り去る1人の女性。


「それで、貴方も私と本当に見間違えたの?」

「言わないで下さいよ」


残された人々にはガイルの記憶が無い、パーティ会場に突如現れた魔物が一人の男性を連れて逃げていったと言う記憶だけが残っている。

シルフィは手を叩いて後片付け様に準備していた者を呼んで後始末を行なうのであった・・・





裏の世界に伝わる仕事人の話がある。

この世界とは別の世界から来たその人物は禁忌を犯した人間の存在を戸籍ごと消滅させる力を持つと言う。

肩書きも親兄弟すらもその人物の記憶を完全に失い相手を孤立させるチートスキルを持つその女性の本当の名を知る者は居ない・・・




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