魔王を倒して世界を救った勇者、帰る前に最後の仕事を行なう・・・

「やぁ来たね勇者アベル」

「よっ賢者ルー」


深い深い森の奥、神聖な世界樹のふもとにある森エルフの住む里の更に奥に用意された祭壇の前に勇者アベルは来ていた。

異世界召喚されて先日、遂に大魔王マオーンを倒し世界を救ったアベルは元の世界へ戻る前に最後の仕事をしにやって来ていたのだ。


「王女様とはお別れ済ませたのかい?」

「あぁ、気持ちは凄い嬉しかったんだけどやっぱり帰る事にしたからね」

「そっかそっか、君も罪作りな男だからねぇ」

「はぁ・・・勇者として当然の事をしてきただけなんだけどね」


世界を巡り様々な町で人々を助けそこの町や村で惚れられる、良くある勇者の物語そのものであった。

それでも好意は素直に受けてその上でちゃんと頭を下げて断る。

その誠実さに更に好感度が上がってとパターン化していたのもルーは良く知っている。

勇者アベル、賢者ルー、戦士ガイ

この3人は本当に世界全ての町を巡って全ての人々を救済した。

それが魔王に関係していてもしていなくてもだ。


「僕としてもアベルと一緒になってここで一生暮らして欲しいんだけどなぁ~」

「一番近くで俺を見ていたルーにそう言われると決意が揺らぎそうになるわぁ~」

「なんでそんな棒読みなのさ!」


賢者ルー、彼女もアベルを慕う一人であった。

共に苦難を乗り越え辛い時も楽しい時も全てを共にした彼女が共に生きたいと願うのだ。

その気持ちは本物であろう。


「まぁ仕方ないね、こうしてダラダラしてるのも良いけど名残惜しくなっちゃうからさっさと終わらせちゃおうか」

「そうだな、これが終わったら最後に皆で食事する約束だしな」

「アベルの世界の料理は本当興味深い物ばかりだったから楽しみ」


そう言ってアベルは腰から剣を抜く。

『聖剣ウォルトデズニー』

勇者のみが扱える伝説の剣で勇者が魔力を注ぐと願い通りの形と属性に変化する摩訶不思議な剣である。


「これにも世話になったからな」

「本当、魔王の灼熱のブレス防ぐのに聖剣をドーム状に変化させてシェルターを作り出した時は剣って何だろうって思ったよ」


アベルが引き抜いた聖剣ウォルトデズニーは真っ直ぐな長剣の形をしていた。

アベルはそれを手に祭壇の前に立つ。

中央に空いた穴は聖剣を封印する為のモノである。

世界一硬いと言われる『ガチン鋼』で作られた祭壇にエルフの封印で次の勇者へ聖剣を繋ぐのが最後の大仕事であった。


「それじゃ・・・よっと!」


中央の穴にアベルは聖剣ウォルトデズニーを刺し魔力を注ぐ。

剣の形状が少し広がり穴と完全に一体化したところでアベルは聖剣から手を離した。


「お疲れ様、僕等エルフが次の勇者までこの聖剣を大切に保護するから安心してね」

「あぁ・・・」


アベルはゼダルの伝説と呼ばれる元の世界のゲームの光景そっくりになったそれを見詰める。

台座から直立した剣が静かに佇むその様子はまさしくファンタジーそのもの。

いつまでも見ていたい気持ちが溢れるがそうも行かないのだ。


「それじゃ行こっか」

「・・・いや、これじゃ駄目だな」

「えっ?」


アベルは聖剣の封印が甘いのではないかと考えた。

実際問題勇者以外は剣の形状を変化させて密着した状態から引き抜くのは難しいのは確かだ。

だが、飽く迄も難しいと言うだけである。


「例えばガイならこれを無理やり力尽くで引き抜けると思わないか?」

「うーん・・・まぁ確かに・・・」

「だったらこのままだと力持ちの盗賊に盗まれる可能性もある、それじゃあ駄目だろ」


そう言ってアベルは再び剣を手にする。

そのまま何か良い方法は無いかと思考をめぐらせていた。


「ならさ、あれはどうかな?ほら港町に行った時に見せてもらった銛あったじゃん」

「なるほど・・・返しを付けて抜けにくくするわけか・・・」


銛:大型の魚など大型の水生動物の漁で用いられる、槍のような漁具。

先端の金属部は獲物の肉に喰いこんで外れないよう、釣り針のような「あご」(かえし)がついている。


「アベルならそのまま形状変化させられるしやってみたら?」

「そうだな、よしいくぞ!」


アベルは突き刺さった聖剣に魔力を流し込む。

祭壇の中で聖剣の形状が変わり引っ掛かりが生まれる。

軽く手で引っ張って完全に抜けない事を確認したアベルは一度頷いて手を離しルーの方を向く。


「お疲れ様、それじゃ行こうか」

「あぁ・・・いや、待てよこれじゃ駄目だな」

「えっ?」


アベルは再び祭壇の方を見て聖剣に手を伸ばす。

そして、その聖剣を手にして傾けたり回したりしながら引っ張ると簡単に聖剣は抜けてしまった。


「やっぱり、台座の穴の形が変わってないから知恵の輪みたいに角度を合わせながら頑張れば抜けてしまうな」

「知恵の輪?良く分からないけど確かに穴の形状は変化してないからね」


アベルは再び長剣の形に戻して台座に聖剣をセットする。

そこで腕を組んで少し考え出した。


「ならさ、台座の中に食い込むまで聖剣を変形させてみたら?」

「分かったやってみよう」


突き刺さった状態の聖剣に再び魔力を流し込む。

聖剣は形を変えて釘バットの様な形に変形しそのまま大きくなり台座の中でガチン鋼で出来た壁にめり込んでいく・・・

そして・・・


「あっ」

「あっ」


台座にヒビが入ってしまった。

硬い物質で出来た物だからこそ割れた時は一気に割れてしまったのだ。


「しまったな、割れちゃったか・・・これじゃあ簡単に抜けちゃうな」

「本末転倒って言うんだっけ?まぁ台座はなんとでもなるけどこれじゃあ駄目だよね」


ヒビの入った台座に突き立てられた聖剣に再び手を伸ばすアベル。

台座を作り直してもらうにしても時間が掛かる、出来上がるのは自分が元の世界に帰ってからである。

アベルは聖剣を手に考える・・・


「かえしを作って抜けないようにする案は合ってると思うんだよな・・・」

「そうだね、盗まれる可能性を下げるなら勇者以外が本当に抜けないようにした方が良いからね」


と真面目な事を言いながらもルーはこうやってアベルと一緒に居られる時間を楽しんでいた。

これが最後の一時である、恋する乙女の純情な気持ちと自分の仕事を全うしなければならない気持ち。

その間で揺れ動く心を味わう一時が掛け替えの無い一時だとルーも理解している。

それでもアベルの力になりたいルーは提案した。


「もうさ、台座の下の地面まで聖剣伸ばして埋めちゃったら?」

「なるほど、引き抜こうにも長すぎて空から引っ張るしか出来ない形にするわけか・・・うん、それは良い考えだルー!」

「えへへ・・・」


自分の適当に出した案が悲しくも最適な回答となってしまった事に喜びつつもこの時間が終わるのを悲しむ・・・

そんなルーの気持ちに気付かないままアベルは聖剣に魔力を流し込む。


「ふんっ!!!」


ズガーンっと台座を突き抜けて地面の中にまで伸びた聖剣は完全に固定された。

試しに聖剣に力を込めるが台座と完全に一体化したように動かないそれを確認してアベルは頷く。


「ありがとうルー、これなら大丈ぶっ?!」


突如ルーに抱きつかれるアベル。

驚くが直ぐに瞳を潤ませるルーに気付いて微笑みを向ける。


「ごめん、今だけ・・・今だけこうさせて・・・」

「あぁ・・・」


勿論アベルはルーの気持ちにも気付いている。

だがアベルは元の世界に帰る事を決めている、これが終わったと言う事は召喚の間に戻って帰るだけなのである。

だからこそアベルは今だけルーの好きにさせてやろうと考えたのだ。


「いままで・・・ありがとう・・・」

「あぁ・・・」


ルーの頭に優しく手を乗せる。

青いサラサラの髪はフワッと揺らぎルーの香りが漂う。

アベルはそれ以上は何も言わない、彼女の気持ちに答える事が出来ない以上言う資格が無いのだ。

どれ程の時間そうしていたのだろうか、落ち着いたルーがアベルから離れた。

その顔は無理やり作った笑顔であるがとても魅力的な顔をしていた。

揺れ動く乙女の気持ちが描かれたその顔に「綺麗だ・・・」と出そうになるのをグッと我慢する。


「ごめん、ちょっと驚かせたね」

「いや、気にするな」


そう言ってアベルは後ろを振り返って最後に聖剣ウォルトデズニーを見る。

地中深くまで突き刺さったそれは次の勇者以外には引き抜くことは出来ないだろう。

・・・ん?


「これじゃあ駄目かもな・・・」

「えっ?」


アベルの言葉にルーが驚きの声を上げる。


「これだけだったら例えば井戸の様な形で上に滑車的なものをセットして引っ張れば抜けるな・・・」

「・・・」


この世界樹の神聖なる場所でそんな人工物をセットされれば盗まれる前に気付けるとは思うのだが可能性としては確かにある。

それでもありえないと考えるのが普通だ。

だがアベルは再び聖剣に手を伸ばした。


「ルー、さっきの案もこれに加えよう!」


そう言って魔力を流し込んで形状を変化させる!

先端を左右に長く伸ばして引き抜けなくしたのだ。

祭壇を貫いて地面の下で左右に広がった先端。

完全な封印となった聖剣の形に満足気にアベルは頷いて歩き出す。

自然とルーはそのアベルに手を取られて歩き出す。

この世界に来て初めて旅立ったあの日ルーがそうした形をアベルは逆に行なったのだ。


「あっ・・・」

「今までありがとな」

「・・・ずるいよ」


そう言いながらも今までの旅が思い出される。

そうして勇者アベルは元の世界へ帰っていった。

その場に集まるアベルを慕う者達は彼が帰った後もその場に暫く残るのであった・・・























「これが・・・伝説の聖剣ウォルトデズニー」

「そうでございます勇者様」


アベルが帰ってから数百年後、次の魔王が誕生し新しい勇者が召喚されていた。

魔王を倒す為に必要とされる聖剣を求めてここまでやってきた勇者は案内のエルフの横を通り抜けて聖剣に手を伸ばす。


「んっ?抜けないな・・・」

「あぁそれは勇者様のまりょk」

「スキル『異世界クリエイト』発動!」


エルフの言葉を最後まで聞かず勇者はスキルを発動する。

その手に現れたのは穴掘り電動工具と呼ばれる物であった。

工事現場等でコンクリートを破壊して地面を掘るのに使われる簡易型パイルバンカーとも言われるそれを手に勇者は聖剣の横の台座を削り始める・・・


「あ、あの・・・勇者様・・・」

「ちょっと待ってて今掘り出すから」


ガガガガガガガガガっとこの世界では聞けない音が響き祭壇は壊されていく。

と言っても風化したせいなのか既に大きくヒビが入っていたので簡単に割れていく・・・


「あぁ?!地面の中にまで埋まってるぞ?!どれだけ長い剣だよ?!」


そう言って再びスキルを発動させ地面をどんどん掘っていく・・・

そしてその全容が現れ聖剣ウォルトデズニーがその姿を現した。


「え・・・これって・・・これが聖剣ウォルトデズニー?」


勇者はそれを手にした。

柄から異様に長く真っ直ぐに伸びた聖剣は先端が左右に伸びていた。

案内のエルフもその形状に唖然とする。

その形はどう見てもアレであった。


「名前変えるべきだなこれは・・・どうみてもこれは・・・」


勇者の声がエルフの里に木霊する・・・


「ツルハシやんけー!!!!!!!」







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