「ああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛! 凄まじい『じゃまぁ』を見せてやる……!」~あぁ、この素晴らしき──『じゃまぁ』に祝福を……~

俺の名はショーイチ。

異世界召喚された勇者だ。

この世界の魔王を倒す為にこの世界に召喚された俺は国から絶対的な自由権を与えられていた。


「勇者様、あそこがヒロ老師の祠です」

「分かった」


俺と共に旅をする1人の少女、彼女はカリン。

俺をこの世界に召喚した召喚術士だ。

俺と彼女は一蓮托生で共に旅を続けている。


俺がこの世界に召喚されて国から与えられた自由権と言うのは非常に素晴らしい物であった。

全ての国民は俺の自由に全てを差し出し、拒否すれば国家反逆罪で終身刑となる。

俺が欲すれば女は体を差し出し、金品や食料に限らず命すらも俺の願い通りにしなければならない。

まさに支配者の特権であった。


「ふぅ・・・しかし喉が渇いたな」

「勇者様・・・その・・・飲みます?」

「い・・・いや・・・まだ大丈夫だ・・・」


カリンの言葉に俺は首を横に振る。

そもそも俺はこの世界に召喚された際に一度死に掛けた。

この世界の空気は人間には完全に毒だったのだ。

それを救ったのが横に居るカリンだった。


「魔王を早く倒さないとな」

「えぇ、頑張りましょう」


俺の呟きにカリンがしっかりと答える。

俺は今までの旅の事を思い出す。

カリンに助けられ国王から自由権を貰った俺は町に飛び出し欲望の限りを尽くそうとした。

目に入る女は全て犯し、市民の資産は全て没収し贅沢の限りを尽くす卑劣な外道と成り下がろうとした。

勝手に呼び出して勝手に殺しかけて勝手に世界を救えとか言われたらそれ相応の対価を貰わないとやってられないと考えたわけだ。

そして、俺は1人の少女に襲い掛かった。

家の手伝いをしていたのだろう、その少女に俺は襲い掛かり衣服を引き裂き押し倒した。

泣き叫ぶ少女の口を口で塞いで無理矢理強姦したのだ。


「いらっしゃいました。あの方がヒロ老師です」


カリンの言葉で俺は思い出すのを中断する。

俗世を捨て悟りを開く為に祠に篭もっているヒロ老師は今にも死にそうな体でそこに座っていた。


「ををを・・・貴方は・・・勇者様か・・・」

「あぁ、ショーイチと言う。ヒロ老師だな?」

「いかにも・・・ごほっごほっごほっ」

「大丈夫ですか?!」


飛び出そうとするカリンを俺は止める。

こいつはいつもそうだ。

俺は溜め息を一つ吐きながらヒロ老師を見詰めた。

そう・・・あの時も・・・


「んぐー?!んぐー!?」

「勇者・・・様・・・」


少女に襲い掛かった俺の後ろにカリンがやってきた。

今にも泣き出しそうな顔で俺を見詰めるその目は少女を哀れんでいた。

国王から自由権を与えられた俺の邪魔は彼女にも出来ない、だから俺はこの少女を気が狂うまで自由にしても良いのだ。


「へへへっ・・・大丈夫、命までは取らないよ。目を瞑って我慢してれば直ぐさ」

「いやぁああああおとーさん!おかーさん!!!」


泣き叫ぶ少女を通り掛かりの人が見るがそこに居るのが先程国王から紹介された勇者だとしり視線を反らす。

誰も俺には逆らわない、もし逆らえば国家反逆罪確定だからだ。


「俺の世界じゃさ、お前みたいな小さい女を襲うのは犯罪だからな・・・はははっ興奮するぜ!」


まさに外道、まさに非道、誰も彼もが少女から視線を反らし両親も少女の叫びを聞いてこちらを見るがそれ以上何もしない。

俺に手を上げれば一家揃って終わりなのが目に見えているからだ。

それならば少女に傷は残るが我慢したほうがマシと考えたのだろう。


「くくく・・・誰も助けてはくれないよ、さぁ・・・お楽しみだ。良い子にしてれば出来るだけ優しくしてやるさ」

「いやー!!!お願い許してー!!!」


俺は自らの着ている物を・・・




「勇者様・・・ワシはもう長くない、これが最後の言葉に・・・なると思います・・・心して聞いて・・・下され・・・」


ヒロ老師の言葉に俺は我に返った。

今にも死にそうなヒロ老師に視線を向けてその言葉を待つ・・・


「魔王・・・やつの正体・・・それを知らなければ・・・勝つ事は出来ませぬ・・・」


途切れ途切れに言葉を話すのも一杯一杯なのだろう、俺はその言葉を心に刻む。

魔王さえ倒せば今度こそ自由権でこの世界の全てを俺のものに出来る。

そう国王に約束されているからこそ今は真面目に世界を救う気持ちだ。

そう・・・このカリンさえいなければ・・・


「お・・・お願い・・・」

「ははは・・・は・・・はぁ~」


突然犯る気が薄れた俺は目の前の少女に哀れみの目を向けていた。

可哀想・・・今から犯そうとしていた少女にそんな事を思う筈が無いのにも関わらず俺はそう考えていたのだ。


「ちっなんか萎えちまった・・・」


そう言って少女から離れた。

直ぐにカリンが少女に駆け寄り癒しの力で傷を癒し破いた服の代金を手渡す。


「ごめんなさい、勇者様は混乱していたんですよ」

「ううん・・・大丈夫・・・」


少女も訳が分からないのだろう、俺の方をチラチラみながら困惑した顔付きだ。

俺がこの世界で生きる為に通されたカリンとの魔法のバイパス、それはカリンの感情や感覚が俺にも流れてくるという副作用があった。

つまりカリンが悲しいと感じれば俺も悲しくなり痛みを感じれば俺も痛みを感じる。

これは一方的なモノで俺からカリンへそう言った事が伝わる事は一切無いのだ。

そして、一番の問題は・・・カリンから一定距離離れたら俺はこの世界の空気で死ぬのだ・・・


「勇者様?大丈夫ですか?」

「あっあぁ、ちょっと今までの旅を思い出してな」

「良いですかな?魔王の秘密・・・それは・・・」


この記憶が突然思い出されるのはきっとカリンがこれまでの事を思い出したという事もあるのだろう。

はっきり言って他人の深層心理まで影響を及ぼされるというのはとても邪魔な物でしかない。

様は集中できなくなったタイミングが通常の2倍やってくると考えれば分かると思う。

気が直ぐに散るのだ。


「魔王の体の・・・」

「くちゅんっはっはっはっくちゅん!はっくちゅんっ!!!」


突然くしゃみをするカリン。

すると当然俺にもその感覚、つまり鼻がむずむずする感覚が流れ込んできて俺も・・・


「はーくしゅん!はーくしゅん!!」

「くちゅんっ!くちゅんっ!」

「・・・・・で・・・・・が・・・・・・・に・・・・を・・・・」


2人してくしゃみを連発する。

くしゃみのせいでヒロ老師が何かを言っているのが全く聞き取れず・・・


「ですのじゃ・・・勇者様・・・あとは・・・頼みました・・・ぞ・・・」


そのままヒロ老師は長寿を全うした。

そこに居たのは鼻水を垂らす俺とカリン。

そして、失敗した。やっちまった。どうしようと言う困惑と不快な感情が2倍で俺の中を駆け巡る。

人間の負の感情は1人でも鬱病になったりするものなのに俺にはその倍の感情が流れ込む。

不死と言われる魔王をどうやって倒せば良いのか分からなくなった俺は祠の天井を見上げ叫ぶ・・・


「あぁあ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!!!!!!!」


本当に・・・こいつ邪魔ぁああああああああああああああああああ!!!!!!!!!






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る