魔王様、アメゾンからお荷物が届いてまして

「有り難う御座いました。今日もお仕事頑張ってください」


ハロワの前に在る自販機にお前は何処に置かれているのか分かっているのか?

っと思い続けた俺だったが


「仕事明日からなんだ」


っと返事をする危ない男。

俺の名前は『鈴木 桂馬』静岡県で一番多い鈴木の苗字を持つ男だ!

先日までこのハロワに仕事探しに来ていた俺にも遂に仕事が決まり今日は手続きに来ていたのだ。

前の仕事先が社長の夜逃げで職を失った俺は再就職に走り回ったが中々仕事が決まらず3ヶ月が過ぎていた。

そんな中、俺が目をつけたのは運送業であった。

法改正で中型免許と言うモノが出来てから新卒者が就職しなくなり人手不足が続いているこの業界で生活の繋ぎと出来れば正社員目指して就職活動をして先日遂に『佐山急便』と言う運送会社で働く事が決まった。

今日は就職祝い金の手続きを済ませ挨拶と制服を受け取りにこれから行くのだ!


多分ブラックな会社だろうと考えたがそう言う会社なら色々と緩いところもあるのも確かだ。

特に何故か非常に給料が良かったのでそれが決定打になったのだが・・・

今考えればそんな美味しい話に裏が無いわけが無かった・・・


翌日から働き始めた俺は早速運送会社の肉体労働の大変さを身を持って体験していた。

午前中は配送に出る人達の荷物集めを手伝い午後からは翌日の配送物の仕分け。

そして、最後にゴミ拾いと言われる配達忘れの商品や遅れて来た商品の配送手伝いである。

この最後のゴミ拾いの量や場所によっては帰るのが遅くなるのも良くある事でその分残業代は出るのだが結構大変であった。


しかし、人間はなれる生き物だ。

気が付けば3ヶ月が過ぎて正社員として働ける事が決まった。

明日から配送に行って貰うと社長に言われた時は遂に一人前デビューかと気持ちが高ぶったものだ。

この3ヶ月で体もかなりガッチリと鍛えられ筋肉質になった俺にもう怖いものは無い!

そう考えていた頃が俺にもありました・・・


「はい、桂馬君。これが今日の配達分ね」


そう言って配車担当から伝票を渡されたのだが・・・


「あの、先輩・・・伝票1枚だけですか?」

「あぁ、それだけなんだけど・・・とりあえず頑張って」


そう言われ渡された伝票には不思議な事が書かれていた。


住所:魔界大通り6丁目6番6

届け先:魔王城 魔王姫様 充て

送り主:アメゾン

詳細:代引き、3日以内の配達


そして、先輩に渡された住所の場所を調べると・・・


「あの・・・先輩、地図によると立ち入り禁止区域になってるんですが?」

「あぁ、そこから魔界に行くんだ」


全く意味が分からないがとりあえずやる前から色々言うのも何なので配達の準備をする事にした。

倉庫から仕分けされている荷物を伝票と照らし合わせて伝票番号と一致する商品を山の中から探すのだが・・・

何故かこの商品だけ厳重に棚に保管されていた。

週間雑誌2冊分くらいの大きさのその箱1つを軽トラに積み込み早速出発する。


道中は気楽なものであった。

この1つを配達するだけで今日の仕事は終わりだ。

もう単なるドライブとしか考えていなかった俺はもっと色々考えておくべきだった。

軽トラを走らせること約20分・・・

立ち入り禁止区域とされているその区画の入り口の受付に伝票と荷物を確認してもらい中へ通してもらう。

そして、俺の前には今とんでもないモノがあった。


「ななななな・・・」

「君はこれからここを通ってその荷物を届ける事以外の事を行ってはいけない、それを行うと国家反逆罪で無期懲役になるので注意したまえ」

「ほぇ?!ほぇ?!」


それだけ告げられ背中を押される。

俺は目の前の七色に輝く鏡の様な空間に足を踏み込んでいった・・・

一瞬視界がグルグル回ったかと思ったらそこに立っていた。

そして、目の前に兵隊の姿をした人が駆けつけて来て荷物と伝票の確認をしてもらう。

それが済んだら用意されていたトラックの助手席に乗せられそのまま連行される・・・


意味が全く分からないまま窓から見える景色に息を呑む・・・

空は真っ黒な雲がまるで生き物のように動き枯れた木々がその雰囲気を感じさせる。


「うわぁああ?!」


トラックの横を突然並走した巨大なトカゲ・・・いやあれは恐竜だな、を見て声を上げてしまう。

しかし、何か警戒したのかトカゲはそのまま何処かへ走り去ってしまった。

なんの意味も分からないままトラックを走らせること15分・・・

そこは城であった。

本当に城であった。


「それでは我々はここまでだ帰りは迎えに来るのでこれで連絡を送ってくれ」


そう言われ何かのスイッチの様なものを渡され城の前で降ろされたので徒歩で城の門の前に立つ。

そしたら門の後ろから大きな目玉に羽の生えた生き物が現われ何処からか声がした。


「げぎゃげぎゃげぎゃぎゃ?」


やばいこれはなんだ・・・俺は今何処に来ているんだ?

全く意味が分からないが言葉が通じない感じがしたのは間違いない・・・

でも一応決められたルール通りに・・・


「すみません、佐山急便です。アメゾンから魔王姫様充てのお荷物が届いております」

「ぐげ?ぐぎゃげげっんぎゃぎゃ、ぐげぇぎゃぎゃ」


なんか通ってイイのか横に避けられたので一礼して荷物を手に持って奥へ進む。

巨大な扉であった。

まるで戦車を城内に仕舞うのにコレくらいの大きさが無いと駄目なんだと言わんばかりのサイズにちょっと気後れしつつもノックをする。


「ごめんくださーい!」


少ししてゆっくりと扉が開く・・・

そこには執事服を着た美女が居た。

腰まである髪は真っ赤で同じく瞳も真っ赤であった。

執事服の美女は一礼をして・・・


「ようこそいらっしゃいました、魔王姫様がお待ちです。」


細くなった目に少し魅了されながらも会社で教えられたとおりお客さんを直視しないように気をつけて後を付いて行く・・・

少し進んで階段を上がる時に横目でチラリとこちらを見て舌舐めずりをするのが見えて背筋がゾクゾクっとしたのだが今は仕事中って事で気を引き締める。

階段を上がりきると正面にある大きな扉の下の方に小さなドアが在りそこにノックをする執事服の美女。


「魔王姫様、お荷物が届いているそうです。」


少ししてドアが開いてそこから青い髪の少女が顔を覗かせた。


「荷物?」

「あっこんにちわ。アメゾンから魔王姫様宛てでお荷物が届いておりまして・・・」


アメゾンと言う言葉を発して直ぐに彼女は頬を赤く染めて何度も何度も頷いた。

何を照れているのか分からないが可愛い娘が照れてる姿は見ていてこちらも照れてくる。


「だ、代引きになってまして代金の方が・・・17500円になるのですが・・・」

「これで・・・」


青い髪の少女は小さな袋を執事服の女に手渡してそれをこちらに持ってきた。

とりあえず商品を渡してそれを受け取り中を見ると・・・


「金貨?」

「足りませんか?」

「い、いえ・・・多分大丈夫です。」


少女の声があまりにも綺麗だったのでちょっとキョドってしまったがこの場合お釣りはどうしよう・・・


「す、すみません。ちょっとこちらの金貨がどれくらいの価値が在るのか存じませんもので換金後に再度お釣りを・・・」

「監禁じゃと?!貴様姫を監禁する気か?!」


直ぐ横で恐ろしく低い声が聞こえゆっくりと振り向くと・・・

そこには身長2メートル半はる在る大男が立っていた。

良く見ると頭に角が生えている、鬼だ・・・


「いえ、そうじゃなくて・・・」

「姫を監禁するなどワシが許してもワシが許さんわ!」


意味が分からんが命の危機なのは理解した。

振り上げられた手には巨大な棍棒が握られておりそれが振り下ろされる!

俺の人生終わった・・・


「ばか者!」


その瞬間横に居た執事服の女が飛び出し鬼の胸に飛び蹴りを行い鬼は血反吐を吐きながら後ろに吹き飛ぶ!

唖然とする中大きな落下音が響き気付いた。

いつの間にか執事服から紫の羽が生えていた。


「すまないな、驚かせてしまっただろう?」

「いえ、だ・・・大丈夫です。怪我してませんから」

「そうか、お前は続きそうだな・・・これからも宜しく頼む」


そう告げられ受け取りのサインを頂き伝票を持って玄関まで案内される。

そして、凄く綺麗な一礼をされて城から出て門を通り降ろしてもらった場所でスイッチを入れる。

そのまま暫くそこで待っていたのだが・・・

目の前をドラゴンを散歩させている人型のスライムが通ったり上空を火を吐く骨の蛇が空飛ぶ話す槍と戦っていたりと暇を潰すのは十分なモノを見れて唖然としていたら直ぐにトラックが迎えに来た。

そのままトラックに乗り来た道を戻り七色の鏡を潜って謎の書類を受付みたいな場所でサインさせられて軽トラを運転して会社へ戻った。

驚いた事にいつの間にか翌日になっており・・・


「入金は明日頼むから今日は換金しておつりはボーナスになるから宜しく頼む」


と言われその日は帰らされた。

タイムカードを切って8時間労働の残業20時間なんて初めて見たのに驚きつつ会社を後にする。

そのまま指定されている換金場所に行き魔王姫から頂いた金貨を渡すと・・・


「金貨4枚で64000円だね、はいっ」


そう言って本当に64000円渡された。

代引きが17500円だから46500円のボーナス。


「マジでこれ貰ってイイのか?」


そう思いながら翌日入金処理をしたら・・・


「今日と明日は休みになるから明後日また頼むね」

「あっはい、ありがとうございます。」


そう言ってその日は帰るのであった。







「うふふ・・・本当に届いた。」


魔王城の魔王姫の部屋で彼女は届いたアメゾンの箱を開けて中身を取り出していた。

それは人間界のセクシー下着とピンクの豆みたいな物にコードの付いた物体・・・

俗に言う大人の玩具であった。


「はぁ・・・でもあの人間・・・悪くなかった・・・また来てくれるかな・・・」

「魔王姫様、失礼します。」

「あっルリー、今日はありがと」


執事服の美女、ルリーはその長い髪を左肩から前に垂らして魔王姫の部屋へ入ってきた。

そして、その魔王姫の手に在ったそれを見て微笑む・・・


「届いたんですね」

「えぇ、本当に・・・これ使ってもイイのよね?」

「勿論です。お手伝いしましょうか?」

「お願いルリー」


魔王姫はルリーと共にベットに移動して大人の時間が始まった・・・






「はぁ・・・凄かったわルリー」

「ふふふ、可愛かったですわよ魔王姫様」

「やだもぅ、ルリーったら」


体は布団を被っているので見えないが着ていたであろう衣類が横に折り畳まれて置かれているので創造するのは容易い。


「それで、今日の彼ルリーから見てどうだった?」

「私の行動や羽を見ても動揺してませんでしたし鬼の威圧にも反応を示しませんでした。もしかしたら彼なら続くかもしれませんね」

「そうよね、なんだか私も彼の事が気になっちゃって・・・」

「また何か注文すればもしかしたら届けてくれるかもしませんよ」

「そう・・・よね・・・じゃあ次は・・・」


そう言って頬を赤く染めて枕元に置いてあったタブレットに手を伸ばす。

そして、表示されたそれを見てルリーも頬を上げる。

大人のマッサージに使える液体・・・■ーションであった。


「魔王姫様、もし良かったら彼に塗ってもらうと言うのは?」

「えぇえええええ?!?!?!無理よ!そんなの無理よ!」

「まぁ・・・うふふ・・・嫌って訳じゃないんですね」

「・・・」コクン


頬を染めたまま魔王姫は頷く。

ルリーはその照れた魔王姫が可愛くなり再び大人の時間が始まるのであった。








西暦2017年、異世界は魔王によって支配された。

しかし、人間の最後の抵抗により魔王と人類は相討ちとなり後に残された魔王の忘れ形見である魔王姫は魔王の後を継いで世界を支配していた。

そんなある日、人間界と繋がるゲートが突然出現した!

当然人間サイドはそのゲートを通って異世界に進出したが現代兵器を使っても全く歯が立たない化け物達に降伏した。

そんな人間に魔王姫は互いの不可侵条約を交わし交流を秘匿に始めた。

その後、魔王姫は人間界の様々な物に興味を持ち異世界でも使えるタブレットをプレゼントしてもらい、それを使ってインターネット回線で武器を持たない軍人以外に注文した物を配達させるルールを作った。

これは偶然にも前任者が逃げ出して開いた穴に入れられ魔界へと定期的に商品を届ける事となった一人の青年の物語・・・


青年はまだ知らない、魔族の中でも魔王族は人型の他の種族から番の相手を選ぶ風習がありそれの候補に選ばれている事を・・・

更に魔王の側近のインキュバスのルリーにも目を付けられているという事を・・・

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