辺りが薄暗くなってきたのがわかって、私はベッドを抜け出した。運命は変えられないけれど、せめて最後は美しいものを見ながら死にたい。そう思ったのだ。更に家を出ると、初冬の夜風が身を切るように冷たかった。少年も私のあとを追ってきた。


 夕陽が西の山に沈んでいく。あの紅さは私の運命の儚さを象徴しているのだろうか。少年もただ黙って私の手を握った。そして、空に星が煌めきはじめる。一番星がどれかなどわからないくらい、次々に新しい光が生まれた。私は少年に握られた手を強く握り返していた。


「こわい……こわいよ……もうすぐ隕石、落ちてくる……」


 自分が涙声なのに気付くのと、頬を流れる涙に気付くのは同じくらいだった。すると、私の手を握っていた少年の手が離れた。


「おねえさん! ぼくになまえをつけて!」


 驚いて少年の方を向いた私は、目を見つめながらそう言われた。


「名前……? どうして……?」


 こんなときに何を突拍子もないことを言っているのだろう。わけがわからない私に、少年はさらに畳みかけた。


「いいからはやく! ぼくになまえを!」


 空にひときわ強く輝く星が現れたのを確認しながら、私は必死で考えた。少年に名前を……? 少年……いや、オオカミだから、ウルフ……? いや、それは固有名詞じゃない。


「じゃあ、ルゥ。ルゥでどう?」


 なんとなく、響きの可愛らしさでそう口にした。それを聞いた瞬間、少年は不敵な笑みを浮かべて、白い歯を見せた。


「ありがとう! おねえさん!」


 親指を立てて「グッド」のポーズを見せると、少年はひらりと一回転宙返りをした。すると、一瞬で少年は冒険譚に出てくるような弓使いの姿になって、左手に金色の弓、右手に氷の矢を手にしていた。驚く私に、少年は軽くウインクして、夜空で一番輝く星に向かって弓矢を放った。

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