3
「おねえさん、まきあつめてきたよー」
「ありがとう、そこに置いておいて」
少年と一緒に暮らすようになって三日が経った。彼は思いのほか私のために働いてくれて、しかも失敗することもないのだ。非常に役に立っている。彼との生活が一人の生活よりも楽しいのは無論のことで、時間は飛ぶように過ぎていた。
でも、時々ふとむなしくなる。こんなふうに楽しく暮らしていても、あと数日で終わりはやってくるのだ。隕石が落ちてきて、辺り一帯を破壊しつくす、そんな運命は変わらないのだ。
「おねえさん、こんやのごはんはなあに?」
「今夜はね、豆のスープよ」
「わあい! ぼく、おねえさんのスープだあいすき!」
元がオオカミだというのに、少年は豆だろうが野菜だろうが文句を言わずに食べてくれていた。肉が食べたいと言い出さないかと心配していたのだが、そんなそぶりはまったく見せなかった。もっとも、元がオオカミなのだから、肉と言っても加工したものより生肉が食べたいだろうとは思うのだが……。私は少年が嬉しそうに食べてくれるのを良いことに、肉の話はしないようにしていた。なぜなら、私に肉を手に入れるすべはないからだった。
この小さな村に、人間はもう私しかいない。占いうんぬんの問題ではなく、この村は過疎化していた。私が隕石落下の結果が出た占いをするずっと以前から、この村には私しかいなかった。客のいない占い師などむなしいものだが、それでも私は構わなかった。生まれ育ったこの村が好きで、この家が好きで、一人でも暮らしてきたのだ。だが、一人では狩りをすることもできず、ただ細々と野菜や豆を育てる暮らししかできなかった。肉を食べた記憶など、ほとんど薄れていた。そもそも肉食はそんなに好きでもなかったのだ。
肉についてそんなことを考えていると、少年が私を見上げていることに気付いた。くりくりとした瞳は可愛らしく、元が獰猛なオオカミだというのを忘れてしまう。
「何? 何かあった?」
「おねえさんはどうしてにげないの? いんせきがおちてくるのに」
ドキッとした。オオカミがどうしてそれを知っているのだろう。
「どうして知ってるの? 私、その話ししたことないのに」
「どうぶつはしってるよ。だからみんなにげてる」
それで最近鳥の声も聞こえなくなったのか。確かに最近の森からは明らかに生き物の気配が減っていた。まさか動物たちまでも逃げていたとは……。
「それにぼくはおおかみだからね」
そう言って少年はふふんと笑った。私にはその言葉の裏に秘められた意味はわからなかった。
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