抱擁


 世界一美しい女神像を模して作られたために、自分は両腕を持たないことになったのだと彫刻が言う。

 別段不便に思ったことはないと言う。

 彫刻家にもそう告げたのに、彫刻が動きだしたその日から、彼は欠けた両腕を彫り続けて死んだのだと言う。

 両腕は完成せず、だから彼の最後の作品は自分なのだと言う。


 自分は完成したから動きだしたのだと彫刻は言う。

 だから両腕などつくはずもなかったのだと言う。

 彫刻家がなぜあれほどまでに両腕に執着したのか分からないと言う。


 僕には理由が分かる気がする。世界一美しい女神像の体を持つ彫刻はその顔だけが彫刻家の母を模して彫られている。


 僕は両腕を広げて、石の彫刻を抱きしめる。ひんやりとした腕の中、両腕のない彫刻が、耳元で「いま分かった」と呟くのを聞く。

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