越境

カニうまい

カニ！

カニ！

カニ！

（今日こそ言わなきゃ）

（これ以上こんな曖昧な関係でいるのも…）

（お互い将来もあることだし…）

（ああーもう、とにかく別れよう）

「どうしたよ、いきなり家くるとか」

「…ごめん」

「深刻な顔しちゃってさ」

「うん、その、あー…話があって」

「話かあ、いいタイミングで来たね。なんか実家からカニがさ、送られてきて。大量に」

「カニが」

「一人じゃ食べきれないし、ちょうど呼ぼうかと思ってて。話は食べながらでどうよ」

「食べながら…」

「カニきらい？」

「いやすきではあるけども」

「うわー。カニだー」

「カニです。カニ」

「これってタラバ？ズワイ？」

「えー…お、このセット、どっちもはいってるっぽい」

「へー。どう違うの」

「食べ比べてみよう」

「いただきます」

「いただきます」

「ハサミとってハサミ」

「ん」

「いやカニのじゃなくてね、料理ハサミとって」

「はいはい」

「うわー。身がぎっしり」

「見てこれ、カニミソ！甲羅酒やろう甲羅酒」

「やろうやろう」

「…」

「…」

「…」

「…」

「…なんか無言になるよね。カニ」

「…え？ごめん集中してた。剥くのに」

「…だよねー」

「…」

「…」

「…おいしい…カニおいしい…」

「…うん…うん」

「…」

「…」

「…」

「…」

「…あのさあ」

「…うん」

「…カニを食べながらシリアスな会話をするのは無理だと思うんだよ」

「…たしかにー」

「カニだけに？」

「…………」

「…………」

「別れよう」

「ごめんて」

カニ！

カニ！

カニ！