ゾンビアポカリプス、その後


 ねえもう十分じゃないと彼女が言い、いやまだだろうなとぼくは答える。彼女はあくびをしながらぼくを見ている。ぼくは人の胸にまたがってそいつを殴っている。ずっと殴っていたものだから相手の顔はへこんでいて、自分でやったことながら、まったくひどいありさまだと思う。


「とっくに動かないもん。もう大丈夫でしょ」

「えー、試してみる?」


 彼女があんまり退屈そうなので、ぼくはまたがったまま腕を下ろしてみた。しばしの休憩だ。

 すると突然死体の腕が動いて、ぼくの顔に殴りかかった。ぼくはよけなかったので、殴られて顔がへこんだ。彼女はばつの悪そうな調子でありゃあと言い、ぼくはふたたび手を動かしながらほらねと言い、ふたりして顔を見合わせるとなんだか気の抜けた笑いが漏れて、笑った拍子にぼくの口から欠けた歯がこぼれたのを見てまた笑いあい、ああやっぱりもう二度とぼくたちは、生きることも死ぬこともないんだなあと思う。

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