ふわふわ
お菓子を作るのが好きだ。それもクリームたっぷりの、真っ白でふわふわのケーキを作るのが好きだ。
好きが高じてパティシエになって、今ではちょっとしたお店で働いている。たまに取材があって、聞かれる。パティシエになったきっかけは、大切にしていることはなんですか。好きだったんです、ただ好きだったんです、ケーキを作っているときの僕は幸せです、だからその気持ちを込めて、食べてくれる人たちの顔を思い浮かべて作っていますと、その度に答えている。
でもこれは正しくない。お菓子を作っているときは、それを食べる人のことなど頭にない。幸せや夢やそういったものを、生地に練り込む余裕などない。
僕にとって、本当に大切なのは怒りだ。生まれてから死ぬまでずっと付き合うことになる、目の眩むような真っ白な怒り、そのやり場のなさ、正体の掴めなさ、それだけが僕の手を突き動かして、クリームをなめらかにし、スポンジのきめをこまかくし、粉砂糖をまぶし、花を飾る。
できあがったケーキはいつも、真っ白でふわふわだ。それを見ながら考える。
本当のことを言ったら、みんなはどう思うのだろう。怒りのこもった菓子しか僕には作れない。そんなお菓子を食べたいだろうか。
お菓子作りが好きなのも、みんなが好きなのも本当だ。でもこれはもうどうしようもない。
がっかりされるのがしのびなくて、いつも嘘をついてしまう。そういう気持ちも怒りに溶かして、明日もやっぱりお菓子を作る。
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