SCAPEGOAT
@maaaaple
第1話
「ああああ!」
女の悲鳴が室内に響き渡る。室内には女と1人の男、男の手には彫刻機が握られていて女の背中にタトゥーを入れているようだ。
そう、このタトゥーこそがシュヴァルツの名誉の象徴とも言える誇らしいものだ。
「ほら、終わったぞ」
小麦色の肌に髭の渋めな男が彫刻機を女の肌から離す。
「お、終わった...?」
女は弱々しく起き上がり、ふらふらと鏡の前まで行っては後ろを向き、腰までの長い黒髪を前にやっては背中に刻まれたタトゥーを見て、今までの弱っていた雰囲気から一転する。
「うわ!やっぱりこれかっこいい!」
「リーリヤ、先に服着ろ」
シュヴァルツの軍の中でも認められた者にしか与えられないタトゥーに喜びのあまり上裸だったことを忘れてた先程タトゥーを入れられた女、リーリヤにやれやれといった雰囲気だが微笑ましく思っているのか男が自分の上着を肩にかける。
「はは、気に入った。ディオゴありがとう」
「はいよ、...しっかし最近までちっさかったリーリヤがこんなに強くなっちまうとはなぁ」
「私ももう23だよ、大人だよ?」
ディオゴがリーリヤの頭をポンポンと撫でる。
「42のおっさんからすればまだまだ子どもだってぇの.....あんまり無理すんじゃねぇぞ」
「ディオゴだってタトゥー入ってるんでしょ?」
ディオゴが少し困ったような笑を浮かべる。
「俺はほどほどに頑張ってるから心配いらねーの」
ディオゴはリーリヤが8歳の時にシュヴァルツに引き取られた時からよくリーリヤの世話をしていた。入隊するのに超難関とも言われているが時折戦地で家族と死別してしまった子どもを保護する。リーリヤのようにそのまま入隊できる子どもは極稀なケースだ。今までも出撃経験はあるがタトゥー入りとなったこれからは出撃回数も増え、内容も過酷になることは言われずとも理解出来るだろう。
「リーリヤ、終わったならはやく鍛錬所に来い」
小さいノックが聞こえたかと思えばクリーム色の髪をした男がドアの前に立っている。
「レオか、帰ってきたんならもうちっと休んでけばいいのに」
レオはシュヴァルツの最強の軍人とも言われる男だ。先程まで出撃していたようで靴には返り血が少しついている。
「準備運動にもならないくらいの内容だったからな、リーリヤ、俺は先に行ってるから後から来い」
それだけ言い残すとつかつかと鍛錬所に向かって行ってしまった。
「リーリヤ、あいつが怒んねぇうちに早く行きな、後でうまいもん食わしてやるから」
「ほんと?」
「おう、頑張ってきな」
ディオゴに見送られて鍛錬所に早足で向かうとレオがタバコを片手に煙を吐いていた。
「...やっと来たか」
リーリヤが来るとタバコを灰皿に押し付け、上着を脱いで動きやすい服装になる。
「タトゥー入りとなったって稽古を怠れば強くなんかならない、今日は武器を使わないで戦うぞ」
リーリヤが身構える前にレオが小さい溜めで殴りかかってくる。
「いきなり?!」
間一髪の所で避けるが容赦なくすぐに次の攻撃として足が頭目掛けて回される。
「現地では待ってくださいなんか通用するか」
確かに正論ではあるがレオの一撃は溜めが酷く小さいために次の攻撃も判断しにくければスピードもあり、避けるのだけで精一杯だ。
「避けるだけでは相手は倒せないぞ」
なんとかレオの蹴りを腕でガードする。
「ガードしたら受け流すかすぐに攻撃しなければやられるぞ」
そのままレオは足を引っ込めてリーリヤの鳩尾に拳を入れる。
「くっ...!」
溜めが小さいのに鳩尾に入った一撃は重く、その場に崩れ落ちそうになるが足払いをし、レオの体勢が崩れる。
「スキあり...」
今だ、と追撃しようとしたがレオの体勢が崩れると同時にリーリヤも引きずりおろされ、あっという間に組み敷かれてしまった。
「...気を抜くな、命取りになる。今日は終わりにするぞ」
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