第二部 遠き故郷

<甲/欧州戦線――――――――>

プロローグ

 今日は年に一度の、平和を祈るお祭りの日です。

 桜が咲くこの季節になると、毎年ここで開かれています。

 あれから何年も何年も経って、今ではこの大切なお祭りも、ただの春祭りみたいになっちゃいました。

 でもわたしや、あの頃の仲間達は本当に平和を祈りに、毎年この港に集まります。


 あ、お馴染みさんだ。


「一年ぶりだな。まだまだ元気そうだ」


 こんにちは。


 髭を伸ばした初老の男性が、左手を振ってきました。 

 シャツの右袖がひらひらと風になびいてます。


 彼は高木さん。

 あの戦争で右手を無くしたけど、義手も作らずにがんばってるんですよ。


「桑原艦長、こっちだこっち」


 もう一人、高木さんと同年代の男性が来ました。


「お久しぶりです閣下。いつまでも艦長って呼ばないで下さいよ~」

「あはは、ごめんごめん。貴様も閣下はやめてくれよ、現役の時そんな言葉つけたこと無いくせに、なぁ」


 わははは。二人はわたしの方を見て笑いました。


 そして、桑原さんが言いました。

「しかし、お前まだ現役なのかよ。頑張るなあ」

 ええ、現役ですよ。他のみんなは引退しちゃったけどね。

 わたしも大ベテランになってしまい、あの頃とは背負ってる物がぜんぜん違いますがねえ。


 ふぅ。


 今日はお日様があったかくて、気持ちいいなあ。


 そうそう、わたしは昔から基地がある港、その近くの公園にいます。


 明治の戦艦「三笠」と昭和の戦艦「土佐」が並んで保存されてる、有名な公園です。桟橋には大きな帆船や、現役の軍艦などが今日のお祭りのために来ています。

 公園では屋台を出している人、それを買う人、ただ船を見る人、写真を撮る人、いろんな人が、自由に行き来しています。


 みんな楽しそうだなあ。


 一度だけ、この桜を見れなかった年がありました。

 そのときは、イギリスに行ってたんだ。


 戦争をしに、ね……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る