第参幕 デカ頭戦闘機
「おい、ジミー聞いたか?」
ワトソン中尉が唐突に現れた。いつものように。
「な、なんでありますか?」
「ドイツがデカイ新型戦艦を二隻まとめて出して来ようだ」
「我がジョージ五世級よりもでかいのですか?」
「知るか、そんなことまで」
我が英国の海軍は、今年の春に新型戦艦キング・ジョージ五世級を二隻相次いで竣工させた。どうも、日本との共同開発でずいぶん早く出来たらしい。
その片割れ、プリンス・オブ・ウェールズは、インド洋に日本の艦隊を迎えにいって帰って来たばかり。空から見た奴の話だと、傷だらけの穴だらけの酷い有様だったそうだ。どうも、地中海でイタ公と一戦交えたらしい。
当然、今は修理中。
海軍さんが大変なときは、俺たち空軍が踏ん張らないといけねえな。
八月も半ば近い頃、またいつものようにサイレンが鳴り、ドイツ軍機が飛んで来た。ここはロンドンへの通り道。いちいち驚いていられない。
空にあがると、同じ基地のゼロのほかに、どこからか見慣れぬ日本軍機があがってずんずんあがってくるのが見えた。
なんか、妙にアタマデッカチな連中だな。
いや、エンジンがでかいのか。力任せにのしのし上昇して来る。
なんつーか、フォッケをもっと極端にしたような連中だ。
下からの指示で、我々の部隊もそちらへ向かうと、少しだけデカ頭の前に出た。
おお?速いぞ、こいつは。
少し低いところをぐんぐん追い越していくな。
――あっちからは、護衛のメッサーが突っ込んで来たようだ。
まずは追っ払わないとな。
――おっと、一丁上がり!
まぁ、こんなもんさ。今日は調子がいい。
ちらりとデカ頭の方をみると、既に随分と上の方に行っており、途中の空間でドルニエが火を噴いている。巧くアッパーカットを食らわせたようだ。
で、その後はと言うと、護衛が俺たちに気を取られている隙に、デカ頭の攻撃を二度三度と喰らい、あえなく退散してしまった。
根性ねえな。
しかし、何しに来やがったんだ。
戦いが終わって地上に降りると、隊は例のデカ頭の話題でもちきりになった。
「あ、大佐どの!」
格納庫の隅っこであれこれとしゃべっていたところ、唐突に誰かが叫んだ。
全員がばっと立ち上がり、とにかく敬礼。
現れたのは、ぬぼ~っとした小太りの男。補給部隊のテイラー大佐だ。
「あ、おはよう。おや、朝じゃないなぁ、昨日から徹夜で昼夜が」
「おつかれさまであります」
俺はとりあえずそう言うと、続けて聞いた。
「あの、頭のでかい、日本風の戦闘機でありますが、ご存知ですか?」
「ああ、あれはショーキだったねぇ」
テイラー大佐は、ほわっとした口調で答えて来た。
「大佐どのもショッキングで、ありますか?」
たしかに、俺もあれには驚いた。
「いやいや、ショーキ(鍾馗)。なんかの守り神からとった名前だとさ」
ああ、聞き間違いか。ニホンゴヨクワカラナイ。
「なかなか、力強い奴らでした」
同僚が素直な感想を言った。
「そうだねえ。できたてホヤホヤの新型のパーツを、ムリヤリあるだけ船に積んでコッチで組み立てをだな……あ、コレ内緒だよ~」
大佐はへらへらと笑いながら頭をかいた。
「だめだねえ、眠いとよけいな事まで喋っちゃう。立ち去るとしよう」
この大佐、いつもこの調子だ。
わざとなんだか、天然なんだか。
三日ほどが経ち、あの日の詳細が分かって来た。
どうも、俺たちが追っ払ったのはおとりで、別働隊の攻撃でレーダーが一基つぶさ
れたらしい。まいったね。
そういや、昨夜は外出許可の出た面々と、日本のパイロットを誘って街に繰り出してみたのさ。
ずいぶんと小柄だけど、いい連中だな。
こう、ぴーんとスジが通っている。
ま、酔っぱらっちまえばいっしょだけどな。
とにかく連中の大半は「英語らしきもの」を一生懸命に話し、一部は流暢にクイーンズイングリッシュを話して来る。
一杯(以上)呑りながら、お互いのクニの話をいろいろとしてみたのさ。
きれいな海や山、そして家族とか。
戦争が終わったら、家族で遊びに来いだと。
いいねぇ、あっちは、食い物が美味いらしいから。
いやいや、行けるかぁ~!
俺の給料じゃ、一生無理だわ。
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