幕間〈硝子の夢〉

 ―――いつから狂っていたのか。

 過去にふりかえるのは、ガラス玉を覗く行為に似ていた。

 どうしようもない不可逆の現実で、小さな過去の欠片が浮かんでいる。 

 いつからだなんて、愚問だった。

 僕らはただの外皮にすぎない。瞬きに生じた色の一つだ。

 もうすでに終わっていただなんて、たぶん今だから思えるのだ。

 僕は内側に意識を向けた。


『―――怪物と闘う者は、その過程で自分自身も怪物にならないように気をつけなければならない。深淵を覗き込むとき、その深淵もこちらを見つめている』


 誰かの言葉がよぎる。思い出そうとはしない。

 無意識の海の底。

 ずっとずっと深くで、僕はを確かに知覚する。

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