第16話 お姉さまとさらばドワーフの里

「さて」


 ギタイブクロを倒した俺は、マッスルとジャックに向き直った。


「あいつは倒したし、あんたらも助けた。クレーシーはどこにいる?」


 問いつめると、ゆっくりとジャックは話し始めた。


「正確なところは知らない。だが……恐らくクレーシーたちはケモナ族の村にいる」


「本当か!?」


「いや、正確なところは俺たちも知らないんだ、すまない」


 マッスルが頭を下げる。

 なんだよそれ! 詐欺じゃねーか!


「いや、でもクレーシーとメレがケモナ村の地図を見ていたのは確かだ。もしかすると少し寄っただけでもうそこにはいないかもしれないけど」


「なるほど」


 俺が腕組みをしているとモアが袖を引っ張った。


「お姉さま、ケモナ族の村に行ってみようよ」


「そうだな……」


 とりあえず行けば何か手がかりがあるかもしれない。


 俺たちは、ここでもう少し捜し物があるというチトと別れ、ドワーフの村を出てケモナ族の村に行くことに決めた。





 翌日、俺とモアはデルダの街の冒険者協会に戻ってきていた。


「とりあえずケモナ族の村への地図を手に入れよう」


 地図売場に行くと、案外すんなりとケモナ族の村への地図を見つけた。


 だが会計をしようとした時、地図売場のおじさんに忠告される。


「君たち、ひょっとしてケモナ村にいくつもりかい?」


「はい」


 おじさんは首をすくめ、やれやれという顔をする。


「聞きたいのだが、君たちは、何かケモナ村のクエストを受けているのかね?」


「いえ、受けてませんが……」


「なら、ケモナ村に行くのは難しいと思うよ。あそこは今入村規制を強化してる。ケモナ族か入村許可を得た人でないと入れないはずだ」


「そうなんですか」


 入村規制があるだなんて予想外の事態に俺たちは戸惑ってしまう。


「何とかケモナ族の村に潜入できるクエストは無いかな」


「そうだね、探してみよう」


 俺とモアは、冒険者協会で貼り紙を見てクエストを探した。だが、都合の良さそうなクエストは一つもない。


「あのー、すみません。ケモナ族の村に行けるクエストを探してるんですが」


 受付のララさんに声をかけるとララさんは渋い顔をした。


「うーん、ケモナ族の村に行くクエストは無いヨ」


「えっ?」


「ケモナ族は排他的な民族ネ。特に今はドワフ族との間がピリピリしてるから、ケモナ族じゃないヒトが村に入るのは不可能ネ」


「そうなんですか?」


 ララさんは俺たちの前にドサリとクエストのファイルを置いた。


「それよりも、他にもいいクエスト沢山あるネ。クエスト沢山こなして、お金沢山稼いでこの町に落としていくヨロシ」


 俺とモアは思わず顔を見合わせた。


「ケモナ族の村には入れない……かぁ」

「困ったねー」


 宿に戻り、二人でゴロリと横になる。

 でも、ドワーフの村にクレーシーが居ないってことは、ケモナ族の村にいる可能性が高い。ここは何としても、ケモナ族の村に潜入しないと。


「そうだ!」


 モアがガバリと起き上がる。


「どうした?」


「魔法でケモナ族に姿を変えられないかな!」


「ああ、そっか」


 俺はなるほど、と手を打った。


「鏡ちゃん、鏡ちゃん!」


 モアの影に呼びかけると、真っ黒な影の中からのっそりと鏡の悪魔が現れた。


「……なんじゃ?」


「鏡ちゃん、具合悪いの?」


 不機嫌そうな鏡の悪魔にモアが尋ねると、鏡の悪魔はいいや、と首を振った。


「いや、眠いだけじゃ。どうもこの辺りは魔力の流れが悪くてな。で、何じゃ?」


「うん、モアたち、魔法でケモナ族に変身したいの。できる?」


「お安い御用じゃ。変化は悪魔の得意分野じゃからな」


 パチン、と鏡の悪魔が指を鳴らすと、辺りは一面白い煙に包まれた。


「わぁっ」

「きゃぁっ!」


 そして気がつくと、モアには銀色の耳とふさふさの尻尾が、俺には金色の耳と金色の尻尾が生えていた。


「わっ……」


 モアが耳を触り感触を確かめると、目を大きく見開いた。


「お姉さま、凄い! 猫耳だよ!」


「本当だ……」


 俺も自分の耳に触った。人間の耳が無くなって、フサフサの猫耳が生えてる。


 ……それにしても。


「うわー!」


 鏡を覗き込み自分の耳をピクピクと動かしてみるモア。なんて可愛いんだ……!

 世界中のどんな猫よりも可愛いぞ!! 猫の妖精!!


 俺は思わずモアを抱きしめた。


「お姉さま?」


「モア……」


 俺は真剣な顔でモアを見つめると、耳元で囁いた。


「萌え萌えにゃん、って言ってみて」


「えっ??」


「こう、猫っぽいポーズもつけて。お願い」


 キョトンと首を傾げるモア。そんなモアも最高に可愛らしい。


「も……萌え萌え……にゃん?」


 戸惑い気味にモアが言う。



 ああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁ!!!!




 かーわーいーいー!!!!!!!!


 何なの。何なのこれ。モアってば生物兵器なの? 勇者の剣よりも殺傷能力あるわ、これ。


 俺があまりの可愛さに胸を抑えてうずくまっていると、モアの影からこんな声が聞こえてきた。


「お姉さま……変態じゃな……」


 うるさいっ!!

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