4-4章 お姉さまと猫耳の村
第17話 お姉さまとケモナ族の村
ケモナ族に変身した俺たちは、町で購入したスノーホースに跨りケモナ族の村をめざした。
そして雪が積もった山道を数時間歩くと、見慣れぬ村が現れた。
「ん、お前ら見ない顔だな。どこから来た?」
村に入ろうとした俺たちを猫耳のおっさん憲兵が止める。
「は、はい! アレスシアから来ました」
「そ、そうっ、俺ら親戚に会いに来て」
そう言いながら偽の冒険者証を見せると、憲兵はにこりと顔をほころばせた。
「そうかそうか。わざわざ寒い中遠いところからご苦労さま! さぁ、どうぞ!」
「あ、ありがとう」
「ありがとうございます!」
親切な憲兵さんに救われ、そそくさと村の中へ入る。
「ふぅ、助かったぜ」
俺が胸を撫で下ろしていると、モアが赤い鼻で鼻水を啜りながら俺の腕を引っ張った。
「お姉さま、見て、可愛いおうち!」
モアの指差す方向には、ピンク色でチューリップの形をした小さな家があった。
「本当だ! 可愛いな」
他にも、フキノトウやキノコの形をしたカラフルで可愛らしい家が沢山並んでいて、まるで童話の国にやってきたみたいだ。
「ここがケモナ族の村……!」
俺とモアは初めて見るケモナ族の村に顔を綻ばせた。雪が降り積もる山奥のひっそりとした村だがこんなに素敵な場所だっただなんて。
「でも……とりあえず、泊まるところを探すか」
「うん」
「冷えてきた。日が落ちる前に宿を探さないと」
「そうだね」
俺とモアは白い息を吐き出す。標高が高いせいか、デルダの町より数倍寒く感じる。
近くの商店にいた猫耳のおばさんに尋ね、リーズナブルな宿を紹介してもらう。
そこは魚の形をした宿で、名前も建物の外見の通り「おさかな亭」だった。
「ゆっくりしていっていいよ。今日は貸切だからね」
オーナーの猫耳おじさんが声をかけてくれる。
「へー、貸切なんですか? こんなにいい宿なのに?」
「ああ。今年は異常気象で雪が多すぎるからね、冒険者たちの客足も遠のいちまって。それに最近は村の入口の検問も厳しいしね」
「そうなんですか」
確かに、客室の廊下も併設されたレストランもがらんとしている。
俺は思い切って宿屋のおじさんにクレーシーのことを尋ねてみた。
「あの、私たち、クレーシーっていう冒険者を探しているんですが、見たことないですか?」
「クレーシー? さあ、聞いたことないねぇ」
「ケモナ族の女の子を連れた、赤髪の人間なんですが」
「うーん、この辺に人間なんかいたらかなり目立つはずだけど」
宿屋のおじさんが考え込むと、奥から籠いっぱいの野菜を抱えた奥さんがやってきた。
「ああ、そういえば、人間ならこの近くで見たような」
「それ本当ですか!?」
奥さんに詰め寄ると、奥さんはキョトンとした顔で頷いた。
「ああ。何日か前に朝市で見たよ。赤毛で、妙な……」
クレーシーだ。
俺は確信した。隣を見ると、モアも力強く頷く。
「朝市だね、ありがとう、おばさん」
◇
ケモナ族の村は、朝はいっそう冷え込む。白い霧に包まれた大通りに繰り出すと、昨日は人通りが少なかった道にいくつも商店が並んでいるのが見えた。
「ここが市場かぁ」
白い息を吐きながら出店された商店や屋台を見て回る。
屋台には全て雪よけの屋根がついているが、何しろ雪がどんどん降り積もるので、店員さん達は屋根から雪を下ろすので忙しそうだ。
商品も、さすがに冬なので生鮮食品は少なく、干した肉や漬物、ナッツなどの保存食や、手袋やマフラーなどの衣料品がほとんどだ。
「見て見てお姉さま、これ美味しそう!」
「見て見て! これ可愛い!」
モアが指さした先には猫耳の帽子が所狭しと飾られている。さすがケモナ族の村と言ったところか。
「毛糸で織ったカラフルな帽子やマフラーがこの辺りの名物なんですよ。どうぞ試着していって下さい」
おばさんに薦められ、モアが猫耳の帽子を試着する。
「わー、耳が楽!」
俺たちは、魔法でケモナ族に化けているせいで普通の帽子だと耳が少し苦しい。その点この猫耳帽子だと耳が楽でかなり快適だ。
しかも猫耳帽子を被ったモアは世界中の猫が寄って集っても勝てないほど可愛らしい。
「でも、この帽子を使うのって魔法がかかってる今だけだし、無駄遣いかな?」
だけどモアは小さな声で言うと、帽子を元の場所に戻す。
僕は慌てて帽子をモアの手に戻した。
「そんなことないよ! 猫耳が無くたってこれを被ったモアは最高に可愛いよ!」
「そうかなぁ……」
「本当だよ! モアは可愛い! まるでこの銀世界に舞い降りた猫の天使だ! モアを見ていると、俺はマタタビをキメたみたいになっちまうよ!」
「もう、お姉さまったら~」
俺はモアの被っていた帽子を手に取ると、値札を見た。高い。思っていたのと桁が一桁ちがう。
「…………ま、まあ、冬物だし、すぐに春になっちまうかもな!」
「……お姉さまったら」
「ははは! そうだ、念の為ここでもクレーシーのこと聞いてみようぜ」
俺は店員のおばさんを呼び寄せた。
「すみません、俺たち、人を探してるんですが」
「人?」
「クレーシーっていう、赤い髪の人間です」
そう言うと、おばさんは「ああ」と大きく頷いた。
「赤い髪の人間? ああ、それなら何日か前にここで見たよ」
やった! クレーシーの手がかりが、ついに!
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