第15話 お姉さまと腹の中からの脱出

「お前、どうしてここに!?」


 ジャックが焦りを顔に出す。


「うるせーな。俺もここに吸いこまれたんだよ」


 俺はチラリとマッスルに視線をやった。


「所でこいつ、何で縛られてんだ」


「ああ」


 ジャックが冷めた視線でマッスルを見やる。


「こいつ、食べ物もろくにないのに筋トレをして無駄に消費しようとしたからこうやって縛り上げてるんだよ」


「黙れ、筋トレは無駄じゃない! こういう時だからこそ、筋トレは精神統一に役立つんだ!!」


 マッスルとジャックが言い合いを始めてしまったので、俺は慌てて間に割って入った。


「まぁまぁ。それより、盗んだ剣はどこにあるんだ?」


 するとジャックの顔が真顔に戻る。


「……やっぱり剣を追ってきたのか。だが残念だけどあの剣はここには無い」


「じゃあ、どこにあるんだよ?」


「クレーシーが持ってる」


 やっぱりか。俺は小さく舌打ちした。


「で? そのクレーシーはどこにいるんだ?」


 ジャックは薄く笑って答える。


「さぁな。ここから無事出られたら答えないでも無いけど」


 まずはここから出ないことにはクレーシーの居所も分からないってことか。というか、その前に最悪死ぬな。


 俺はうなずいた。


「分かった。俺のこのロープは外に通じてる。これを辿れば外に出れるはずだ」


「なるほど。腰にロープを巻き付けてわざとギタイブクロの腹の中に飛び込んだわけか。よくやるよ」


 てなわけで俺とジャック、マッスルの三人はロープを辿って元来た道を辿った。が――


「行き止まりだ」


 俺たちは、最初に俺が落ちてきた場所へとたどり着いた。道は行き止まりで、ロープは天井へと繋がっている。

 が、天井のロープは途中で消え、先が見えなくなっている。


「恐らくあそこから先は別の空間に繋がっているんだ」


「なるほどな」


 俺はグイグイと縄を引っ張ってみた。向こうからも微かに引っ張り返されるような感触がある。


 恐らく俺一人だけだったらモアとチトに引っ張って貰えば脱出出来るだろう。だが、ジャックとマッスルが一緒となるとそれも難しい。


「この壁を登れないかな?」


 ジャックが提案する。


 だが壁面はツルツルしていて足場もない。

 俺は壁をコツコツと叩いた。


「内側から攻撃すれば吐き出してくれないかな」


 ジャックは首を振る。


「やってみたさ」


 マッスルもションボリとする。


「でもびくともしなかったぜ」


 俺はポキポキと拳を鳴らした。


「――それは、お前らのパワーだからだろ」


「何っ!?」


「貴様! 筋トレで鍛えたこの俺の筋力を愚弄するのか!?」


「別に愚弄してる訳じゃねーよ」


 俺は腕に力を溜めた。


「ただ、俺にはお前らには出せない力が出せるっつってんの」


 大きく息を吸い込み、腰を落とす。


「――でやっ!!」


 拳を壁面に突き立てると、ドスンという音がして地面が揺れた。


「おおっ!?」


 感触はあった。あったけど……。


「もうちょっとかな」


 俺は再び力を込めた。腕だけでなく全身を使い、拳を壁面に叩きつける。


「ゴフッ!」


 咳き込むような妙な音がし、壁面が蠕動ぜんどう運動をする。


「おお!?」

「効いてるんじゃないか!?」


「よし、もう一度……」


 再び拳を握る。そして二、三発突きを食らわせてやると、急に地面がぐらりと揺らいだ。


「うわっ!?」

「な、なんかヤバいぞ」


 嫌な予感は的中した。壁が再度、蠕動運動を繰り返したかと思うと、凄まじい勢いで風が吹き、急に俺たちは天井に吸いこまれた。


「うぇえええええ……オロロロロロロロ……」


 そして俺たちは、吐瀉物と共に地面に吐き出された。


 べちゃべちゃべちゃっ!


「お姉さまーーーー!!」


 涎でベトベトになった俺に、モアが抱きつく。


「も、モア、汚いだろ!!」


「無事でよかったにゃん!」


 チトの目にはうっすら涙が浮かんでいる。全く、大袈裟だなぁ。


「マッスルー!!」

「無事だったか、弟よ!!」


 マッスルの元にも、どこから現れたのか兄たちが駆けつける。


「無事だったよ、兄さん! これも筋肉を信じたおかげだ!!」


 ……そうだろうか??


「あのー、盛り上がってる中悪いけど……」


 そんな中、ジャックが遠慮がちに声を上げる。


「まずは、あいつを倒さないと」


 視線の先では、巨大なギタイブクロがゆらりと蠢いた。


「そうだな」


 俺は手を開いて斧を呼び出すと、思いきり走った。


「でぇやあああああああ!!!!」


 真っ直ぐに振り下ろす。

 ガツンと硬い音がし、ギタイブクロは縦に真っ二つになった。


 ぐわあアァァァ……


 不気味な声とともにギタイブクロの姿が宙に消える。バラバラと大量の宝石が空から降って来る音。


「きゃああ!」

「すごいにゃん!!」


 きゃいきゃいと喜ぶモアたちを横目に、俺はジャックに向き直った。


「それで? クレーシーたちはどこにいるんだ?」

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