第14話 お姉様と巨大ギタイブクロ

「ぐああああ……」


 人の背丈の二倍も三倍もありそうなギタイブクロがのしのしと歩いてくる。


「あいつだな、マッスルを攫ったっていう巨大ギタイブクロは」


「本当に大きい……」


「何食えばこんなに大きくなるにゃん?」


 俺たちが話していると、ギタイブクロがおもむろに袋の口をこちらに向けた。


「ヤバいにゃんっ、二人とも離れるにゃんっ!」


 チトの声に、反射的にギタイブクロから距離を取る。


 ゴオオオオオオ……!


 途端、凄まじい音がしてギタイブクロの口が開いた。


「うわぁっ」


 凄まじい風。辺りの石や砂がどんどんギタイブクロに吸い込まれていく。ギタイブクロのやつ、俺たちを吸い込もうとしているみたいだ。


 俺たちは、ギタイブクロに吸い込まれないように必死に岩肌にしがみついた。


「あいつ、吸い込み攻撃をして来るのか!」


 ……ってことは、マッスルもあのギタイブクロの中にいる可能性が高いな。


 しばらくして、ギタイブクロの口が閉じた。


「お姉さま、今のうちに攻撃しないと」


 モアが杖を構える。


「でも、ギタイブクロを攻撃したら中に吸い込まれた人間まで危ないかもしれない」


 だとしたらモアの魔法も、俺の斧での攻撃もまずい。


「じゃあ、どうするにゃん!?」


 どうしろと言われても……。


 その時、俺の頭に一つの案が浮かんだ。


「そうだ。俺に考えがある」


 俺は荷物から荒縄を取り出した。また遭難したり崖から落ちたら大変だからと買ったものだ。これならある程度の耐久力があるはずだ。


 俺は縄を自分の体に巻き付けると、端をモアとチトに持たせた。


「次に口が開いた時、あのギタイブクロの中に飛び込む」


「えっ、でも危なくないの!?」

「消化されちゃったら大変にゃん!」


 慌てるモアとチト。俺は安心させるように二人の頭を撫でた。


「大丈夫だ。危なくなったら何とか出てくるから」


「でも……」


「大丈夫だ。俺を信じろ」


 そうこうしているうちに、再びギタイブクロの口が開いた。


「よっしゃ、行ってくるぜ!」


 俺は地面を蹴り、思い切り走るとギタイブクロの口の中に飛び込んだ。


「お姉さまーっ!!」

「ミアにゃーん!!」


 二人の叫び声が、耳の奥でこだました。




 ――ドサドサッ!


「……いてっ!」


 ギタイブクロに吸いこまれた俺は、どこか暗い場所に落下した。


「いててててて……」


 ぶつけた腰をさすりながら荷物からカンテラを出し火をつける。


 すると、辺りの光景がぼんやりと浮かび上がってきた。


「うわーっ、ここがギタイブクロの腹の中か」


 俺はあんぐりと口を開けた。信じられないことに、中は歩き回れる程のスペースがあった。足元も石畳でモンスターの腹の中っぽくないし、きっとどこか別の空間に繋がっているに違いない。


「まるで四次元ポケットだな。というかマッスルはどこにいるんだ?」


 石畳の道を真っ直ぐに歩く。カツンカツンと足音が響く。暗くてジメジメしてい、まるでダンジョンの中みたいだ。


 床には所々に宝石が散らばって鈍い光を放っている。恐らくこれらの宝石もギタイブクロが飲み込んだ物なのだろう。


 ――カツン。


「ん?」


 ふと靴が何かを蹴りあげ音を立てる。宝石にしてはかなり大きい。俺はカンテラを音のした方へ向け、目を凝らして蹴ったものの正体を見た。


「げっ」


 そこにあったのは、宝石ではなく、人間の頭蓋骨と思しき白い骨だった。


 カンテラで隅の方まで照らすと、あちこちに人間の骨がちらばっていることに気づいた。


「……ここに吸いこまれた奴らの成れの果てって訳か」


 ゴクリと唾を飲み込む。

 ひょっとして、マッスルも今ごろ骨に……

 俺は一瞬嫌な想像をしたが、頭を振ってその想像を振り払った。いやいや、あいつが吸い込まれたのはごく最近のことだ。さすがにまだ死んでないと思う。


 だけど急がないとまずいかもしれない。


 すると奥の方から声が聞こえた。


「おーい、誰かいるのか!?」


 この声は……もしやマッスル!?


「あ、ああ! ここにいる! 待ってろ、今行くぞ!!」


 俺は声のする方向へと走った。

 しばらく暗い石畳を走ると、ようやく人影が見えてきた。


「……お前は!」


 声の主が目を見開く。

 そこにいたのは青い髪で片目を隠した少年――ジャックと、縄で体をぐるぐる巻きにされたマッスルだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る