第13話 お姉さまと宝石ショップ

「……いない」


 翌日、俺たちは昨日手に入れた巨大な宝石を手にグルグルとギタイブクロの目撃情報のある辺りを回ってみた。

 だが雑魚モンスターはわんさか出てくるものの、肝心の巨大ギタイブクロは見つからない。


「まぁ、そんな簡単に現れるわけないにゃん」

「そうだよ、お姉さま!」


 モアとチトに励まされてテントに戻る。


「どうしたもんかなぁ……ひょっとして、この宝石が良くないとか?」


 俺が初日に手に入れた巨大な紫水晶を眺めていると、チトが手を叩いた。


「そうにゃん! マーケットに行って、もっと強い石を手に入れたらどうかにゃ?」


「マーケット?」

「強い石?」


 聞けば、ドワーフ族の商店には、宝石屋さんが沢山あって、そこで冒険者向けに魔力の強い石が売られているのだという。


「へえ、面白そうだな」

「行ってみようよ!」


 そんなわけで、俺達はドワーフの村のマーケットへと向かった。



「わぁ、すごい!」


 モアが目をキラキラと輝かせる。

 どうやらこの辺りはドワーフ族の商店がひしめいている地区らしい。

 宙に浮かぶ赤や黄色のランタン。宝石が所狭しと飾ってある店に、見たことも無い野菜やナッツが積まれた店。異国の文字が並ぶ看板や旗が商店街を彩っている。


「見ろよ、この剣! デカくてカッコイイなあ」


「おっ、お姉ちゃんお目が高い! それはドワーフの鍛冶技術の随を結集した……」


「お姉さま!」


 武器屋のオッサンと話していると、モアが腕を引っ張る。


「まずは宝石を見つけるにゃん!」


「分かってるよ……」


 モアとチトに腕を引かれ、渋々武器屋を後にする。


「お姉さま、この店なんか良さそうじゃない?」


 モアが指さしたのは、所狭しと宝石が積まれたアクセサリーショップだ。

 俺とモア、チトの三人は、早速アクセサリーショップに入り、魔力が強くて大きな石を探した。


「わぁ、このダイヤの指輪、素敵!」


 店に入るなり、モアが目を輝かせる。


「こういうのをお姉さまとお揃いで買って、左手の薬指に……むふふ」


「モア?」


「う、ううん、なんでもないっ!」


 モアのやつ、指輪が欲しいのか……。

 でも今の俺たちの持ち金じゃダイヤなんてとてもじゃないけど無理だ。


「さーて、モンスターをおびき寄せるための宝石を探しましょ!」


「そうだな。こっちの首飾りも大きいし、このブローチも……」


「お姉さま、大きさだけじゃなくて、魔力の強さも重要にゃん」


 俺が悩んでいると、チトがひょっこり顔を出す。


「分かってるけど、見た目じゃどうも分からなくて」


 俺が迷っていると、店の奥からでっぷりと太ったドワーフの男が出てきた。


「いらっしゃい。何かお探しかね?」


「あ、はい。できるだけ魔力が強くて大きな石を探してるんですけど」


 俺が言うと、店主は奥から真っ赤な石のペンダントを出してきた。


「これなんてどうです? 龍血石のペンダントです。この大きさの龍血石はかなり珍しいですよ」


「じゃあそれを」


 値段もギリギリ買える範囲だったのて、俺は迷わずそのペンダントを購入した。


「ありがとうございましたー」


 店主に見送られて店を出る――と、モアが急に思い出したように店主のところへと戻った。


「あ、そうだ。実は私たち、人を探してて!」


「人?」


 なるほど。俺はモアの意図に気づき、言葉を続けた。


「そ、そう。クレーシーって女の人です。赤い髪で、鎖を持ってて、ケモナ族の女の子を連れてて!」


「ケモナ族?」


 クレーシーがここにいるとすれば、もしかすると目撃情報があるかも!

 だがケモナ族という言葉を聞いた途端、男の顔が曇った。


「さぁ、見てないねぇ。この辺にケモナ族なんていたら目立つだろうから、見逃すとは思えないし」


 俺とモアは顔を見合わせた。


「そういえば、ケモナ族とドワーフ族は仲が悪いんでしたっけ」


「まぁ、昔は仲良くやってたんですがね、例の事件があってからは……」


「例の事件?」


「ええ」


 おじさんは腕組みをしてウーンと唸った。


「ケモナ族が、春を奪ったんだよ」


「春……?」


 しかし、詳しく聞こうとした瞬間に、他のお客さんが入ってきて、店主はそちらの方へ言ってしまった。

 

 どういうことだ?


 ふと横を見ると、チトが暗い顔をしている。


「チト、どうしたんだ?」


「い、いや、なんでもないにゃん! 早くマッスルが見つかればいいにゃんね!」


 チトは引きつった笑顔を浮かべた。




「よーし、今日こそ巨大ギタイブクロとマッスルを見つけるぞー!」

 

「おー!」

「にゃんー!」


 そして俺達は、再びマッスルを見つけようとダンジョンの中をさまよっていた。


「モア、そっち言ったぞ!」


「うんっ、ファイアー!」


 モアの杖が火を噴く。目の前に居たミミックは、見る見るうちに黒焦げになった。


「ふう」


 モアが額の汗を拭う。

 目撃情報から目星をつけた場所をさまよって数時間。小さなモンスターは沢山現れるものの、肝心の巨大ギタイブクロは中々見つからない。


「どこにいるんだろう」

「中々見つからないにゃん」


 すると、遠くから何やら地響きが聞こえてきた。


 ズン……!


「い、今のは!?」

「あっちの方からにゃん!」


 音がする方向へと走る。


 ズン、ズン。


 音はどんどんこちらへ近づいてくる。

 そして曲がり角を曲がると、とうとう音の主が姿を現した。


「ビンゴだ!」


 そこにいたのは、人の二、三倍の大きさはある巨大な黒いギタイブクロだった。

 

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