第23話 お姉さまと指輪の行方

「これは……氷漬けにされなされた村人!?」


 俺が目の前の氷を確認していると、モアが大きな声を上げた。


「お姉さま!」


 モアの顔が真っ青だ。

 モアの視線の先を追って、すぐにその訳が分かった。


「……チト!?」


 目の前で氷漬けにされている赤いコート。チトだ。チトが、村人たちと一緒に氷漬けにされていた。


「なんて酷い……」

「早く元に戻さないと!」


 俺たちは、洞窟へと足を早めた。


「あのね、お姉さま」


 少しして、モアが口を開く。


「モア、指輪の在処、分かったかもしれない」


「えっ! 本当か!? 一体どこに――」


 ドゴン!


 言いかけた俺の目の前で雪煙が立つ。

 次いでジャラリ、ジャラリという音とともに二つの人影が現れた。


「やあ、また来たのかい覗き見嬢ちゃん」


 赤い髪の女が鎖を手にニヤリとする。


「クレーシー!」

「……と、メレも」


 クレーシーの後ろからひょっこりと鎖に繋がれたメレが顔を出す。


「悪いけど、誰も近寄らせるなと言われているんだ。ここを通す訳には行かないよ」


 鎖をグルグルと回し威嚇するクレーシー。

 俺たちはジリジリと距離をとったり詰めたりしながら睨み合った。


「ちょ、ちょっと待って。私、指輪のありかが分かったかも知れないの。だから――」


 モアが必死に説得しようとするも、クレーシーたちは聞き入れない。


「悪いけど、あんたらの言うことは信用できない。あんたらが来てクソみたいに辺りを引っ掻きまわしてから、事態は信じられないほど悪化してる。これ以上部外者が首を突っ込むんじゃないよ」


 クレーシーが鎖を引っ張ると、メレの瞳に光が宿る。背筋にぞわりとしたものを感じる。やばい。


「モア、後ろに下がって」


「で、でも」


「早く!」


 瞬間、メレは一足飛びで距離を詰めてきた。


「くっ……!」


 轟音がし、先程まで俺がいた場所に大きな穴が開く。俺はゴクリと唾を飲み込んだ。こうなったら……。


「モア、ここは俺が食い止める」


「お姉さま!?」


 モアが目を見開く。

 クレーシーは僅かに口の端を歪ませた。


「ほお、ただでさえあんたは不利なのに、さらに二対一になると? 自殺志願者なのかい?」


「そ、そうよお姉さま、私も手伝う!」


 戸惑うモアの手を俺は握りしめた。


「いや、お前は指輪を見つけてきてくれ。それが、俺たちが冬の悪魔に勝つ近道なんだ」


「でも」


「モア。まさかとは思うが俺があいつらに負けると思っているのか?」


「……ううん」


「なら信じろ。俺は勝つ。だからお前は指輪を見つけてきてくれ」


「……分かった」


 モアは力強く頷くと、コートを翻し、来た道を走っていった。


「おいおい、本当に行かせちまったよ。あんたは本物のアホだね」


 呆れたように首を振るクレーシー。俺は唇を引き上げて笑った。


「いくら性悪とはいえ、モアに女の子を殴るところを見せたくないからな」


「……ハッ、上等だね」


 ジャラリ、鎖の音がした。


「でやっ!」


 クレーシーの声とともに無数の鎖が降ってくる。


「――武器よ!」


 斧を呼び出し、降ってきた無数の鎖を叩き斬る。


 が――


「――くらえ」


 鎖の影から少女の姿が現れる。


 ――鎖での攻撃はダミーか!


 だがまさか斧で女の子を叩き斬る訳にはいかない。俺は必死にメレの攻撃をかわした。


「くっ……」


「ほらほら、私たち二人を相手してくれるんじゃないのかい!?」


 クレーシーは鎖の数を増やす。クソっ、あんな沢山の鎖、一体どこから……魔法か?


 俺が一瞬そんなことを考えた隙に、メレが再び突っ込んでくる。


 ヤバい。反応が遅れた。


 気がつくと、俺は腹に突きを食らい後方に吹き飛ばされていた。


「うわっ!」


 背中を背後の木に打ち付ける。ドサドサと上から雪が降ってきた。


「……ふん、口ほどにもないねぇ。さ、メレ。やっちまいな」


 メレがゆっくりとこちらに近づいてくる。

 俺が雪に埋もれて立ち上がれないでいると、メレの腕がゆっくりと俺の首を捉えた。


「ぐっ……」


 メレの指に力が入り、俺の首を締め上げる。苦しい。酸素を求めて口がパクパクと開く。


「ふんっ、そのままやっちまいな!」


 クレーシーの声。指にさらに力が入る。朦朧とする意識。ヤバい。このままだと本格的にやられちまう。


 するとぼんやりとする意識の中、メレの体にかかっている鎖が青白く光っているのが見えた。


 何だ、これ。もしかして――


 俺はメレの腕――ではなく、鎖に手をかけた。そしてメレの体を覆っている鎖を思い切り引きちぎった。


「――おりゃ!」


 ブチンと音がして、バラバラと鎖が地面に落ちる。と同時に、首にかかっていた力が抜けた。


「……やっぱりそうか」


 クレーシーはあの鎖を通してメレに魔力を送っていたのだ。それでメレは常人離れした力を出せていたわけだ。


「……くっ」


「さて、今度はこちらの番だな」


 俺は逃げようとしたメレの腕を掴むと、懐から荒縄を取り出した。


「な……何をする気」


「それは見てのお楽しみだ」


 俺はニヤリと笑うとメレの体に縄をかけ――亀甲縛りにした。


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