第21話 お姉さまと事の真相

「チト……」

「チトちゃん、どうしてここに!?」


 驚いていると、チトは俺の腕を引っ張った。


「細かいことは後にゃん! 早くこれに乗るにゃんっ!」


 見ると、チトの後ろに小さなトロッコがある。狭そうだと思ったが、魔法で体も縮んでいるのでスルリと入ることが出来た。


「――待てっ!」


 クレーシーが右手を振り上げる。鎖の音と共に、メレがこちらへ突っ込んできた。


「なんちゅうスピードだ」


「にゃんっ!」


 チトはどこからか大砲のような大筒を取り出した。


「行くにゃん!」


 ドッカーーン!

 

 轟音とともに、辺りが真っ白な煙に包まれる。


「うわっ!!」


 反動で、トロッコがガタリと動き出した。


「このまま脱出するにゃんよー!!」


 チトはウインクすると、二発、三発と大筒を鳴らす。するとトロッコは勢いに乗り、物凄い勢いで走り出した。


「わああああああ!!」

「きゃぁぁぁあああ!!」


 まるでジェットコースターみたいに右に左に揺れるトロッコ。

 髪が風邪で飛ばされ、冷気が顔にあたって息ができない。


 しばらくそうしてトロッコで走っていると、目の前に明るい光が見えてきた。


「出口だ!」


 ところが喜んだのもつかの間、出口に着くと同時に、トロッコが急停車し、俺たちの体は大きく宙に放り出された。


「うわぁぁぁ!!」

「きゃぁぁぁ!!」


 ズボッ! ズボッ!


 俺たちは前方にあった雪山に頭から突っ込んだ。


「大丈夫にゃんか?」


 チトが俺たちの体を大根みたいに引き抜く。


「ああ、大丈夫だ。それより……」


 俺は頭から雪を払うとチトに尋ねた。


「チトはどうしてあんな所にいたんだ? 何か事情を知っているのか?」


 チトは黙って頷く。


「あれはまだ十一月で、雪もそんなに降っていなかった頃の話にゃん……」


 そう言ってチトは、静かに話し始めた。


 話によるとチトは、仲間たち数人と一緒に悪魔が住まうという伝説があるこの洞窟に肝試しに来たのだという。


「実はその仲間というのが、あそこにいたクレーシーとメレにゃん」


「何っ、クレーシーたちはお前の仲間だったのか!」


「そうにゃん。私は怖くて途中で帰ってきたにゃんが……クレーシーとメレは肝試しに行ったという証拠のために、あの洞窟の奥のほこらにある二つの指輪のうちの一つを持ち帰ることにしたにゃん」


 持ち帰った指輪はメレが保管することとなり、その時は何も起こらなかったのだという。


「だけど雪が降り始めて本格的な冬が訪れた頃、私たちの夢の中にあの冬の悪魔が現れたにゃん」


 肝試しに行った仲間たちの夢に現れた冬の悪魔。チトたちは指輪を返そうと相談をした。ところが、指輪を持っていたはずのメレは、よりにもよって盗んだ指輪をどこかで無くしてしまったのだという。


「メレが言うには、雪山に遊びに行った時にどこかに落としたんじゃないかと……そして冬の悪魔はクレーシーとメレに取り憑き、無くした指輪を探すように命じたにゃん」


「なるほど、それでこの剣を盗んだのか」


 でも残念ながら、悪魔の指輪は見つからず、この村だけでなく、周囲の村まで悪魔の影響で異常気象に見舞われ、それで今まで仲良くなかったドワーフ族との関係も一気に悪化したのだという。


「でもあのメレって子、クレーシーの鎖に繋がれてたでしょう? あれはどうしてなのかな」


 モアが尋ねると、チトは平然とした顔で言った。


「ああ、メレはああ見えて極度のドMで縛られていることに快感を感じるにゃん」


「そ……そんなことってあるのか!」


「不思議な関係……」


 何だよ、俺はまたてっきりメレはクレーシーに奴隷か何かにされて酷い仕打ちを受けているのかと……心配して損した!


「ま、とりあえず君たちはその剣があればいいにゃんね? ならこの件には関わりないことにゃん。あとは私たちが何とかするにゃん」


「でも」


「その剣はドワーフ族とケモナ族の和平のために必要なものにゃん! 早く持っていくにゃんっ」


「わ、分かったよ」


 俺たちは剣を手に、ケモナ族の村から出た。



「なるほど、そういう事だったのね」


 俺たちの話を聞いたフルウは、腕を組んで静かに頷いた。


「でも、とりあえず剣が返ってきたのはありがたいわ。これはすぐにでもケモナ族の村に持っていかないと」


「ええ、もし宜しければまた護衛しますよ。悪魔の指輪が使われているという誤解は解けましたが、高価なものには変わりないので」


「ありがとう、そうしてもらえると助かるわ。それにしても……」


 フルウは顎に手を当て考えだした。


「無くなった指輪は一体どこにあるのかしら?」

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