第9話 お姉様とクレーシーの行方
「本っ当に申し訳ない!!」
「剣を守れなくてごめんなさい!」
街に戻ると、俺とモアはフルウに頭を下げた。
「ううん、あんな奴を雇ってしまった私が悪いのよ。迂闊だったわ。命があるだけでも有難いと思わないと」
フルウは頬杖をついて大きなため息をついた。
「でもどうしよう。ケモナ族の長とドワーフ族の長になんと説明したらいいのかしら」
俺は慌ててフルウの手を取った。
「安心しろ! あの剣は、責任を持って俺たちが取り戻すから」
「ありがとう、嬉しいわ」
フルウは俺の手を握り返すとウルウルとした瞳で俺を見つめた。
「お、お姉さま!?」
モアがガタリと立ち上がる。
「必ず取り戻してちょうだいね」
ギュッと俺を抱きしめると、フルウは手を振り去っていった。
「お姉さま~! もう、すぐ女の子をたらそうとするんだから!」
「誤解だ!」
むくれるモアをなだめて、俺とモアは宿に戻った。
一階の酒場で食事を取りながら作戦を立てる。
「部屋ももぬけの殻だ。まったくクレーシーのやつ、なんて手際がいいんだ」
ブツブツ言いながら席に着く。
「あの、すみません」
ちょうど店員さんがやって来たので注文を伝える。
「えっと、それから、ここに泊まってたクレーシーって冒険者のこと、何か知らないかな?」
「ああ、彼女ね。結構有名だよね」
髭面の店員は顎髭を撫でながら言う。
「有名人なんですか!?」
「有名人というか、目立つからね、派手だし」
「どこに住んでるとか、次にどこに行くだとかは聞いてないか?」
「いや。年に数回ここに来るけど、各地を点々としてクエストをこなしてるみたいだから」
「そうか」
「ありがとうございます」
店員の去っていく後ろ姿を見つめて、俺たちは同時にため息をついた。
「クレーシーの手がかりは無しかぁ。どうやって剣のありかを探したらいいのかな」
モアが運ばれてきたオレンジジュースを飲み干す。
「そうだなぁ。もともとあの剣はケモナ族とドワーフ族の友好のために送られる品だったんだろ?」
「うん」
「てことは、その二つの種族の間の和平を邪魔したい何者かがクレーシーに依頼して盗み出したんじゃないかな」
クレーシーの武器は鎖で、剣を使うタイプではない。あえてあの剣を欲しがる理由も見つからない。それよりも彼女は典型的な冒険者だし、誰かに依頼されたと考えるほうが自然だ。
「そっか。じゃ、その二つの村に忍び込んで、反和平派の居所を調べればいいって事だね!?」
「そうだな。その前に冒険者組合に行ってクレーシーが誰から依頼を受けたか調べるって手もある」
冒険者組合がそう易々と依頼人の情報を漏らすとは思えないが、何らかのヒントは得られるかも知れない。
俺たちは、早速冒険者組合へと向かってみた。
が――
「悪いケド、他の人の依頼については教えられないネ」
やはりと言うべきだろうか。受付のルルさんにクレーシーのことを相談すると、とたんに渋い顔をされる。
「まァ、依頼人同士の利害がぶつかって冒険者同士で争うことになるのはよくあることネ。失敗したクエストのこと、いつまでも引きずる良くないネ。ここは新しいクエスト受けるべきヨ」
ドサリと俺たちの前に紙の束を置くルルさん。俺たちは仕方なくクエストの依頼表をペラペラとめくった。
「お姉さま、これなんかどう?」
モアが指をさしたのはドワーフの村でのクエストだった。依頼金は少ないが、交通費も宿泊費も出るし、下級モンスター退治のわりに待遇は悪くない。
ここはしばらくドワーフの村に滞在してクレーシーの行方を探るのも悪くないかもしれない。
「……うん、いいかもな」
「でしょ!?」
俺とモアは小さく目配せを交わした。
これでドワーフの村を調べに行く口実ができる。
「これですネ。分かりまシタ~!」
ルルさんが上機嫌で手続きをしてくれて、早速俺たちは、明日の朝にはドワーフの村に立つこととなった。
◇
翌日、ほぼ一日中馬車に揺られ俺たちは、ようやくドワーフの村にたどり着いた。
“ワリフ村”と、黙っていれば見落としそうな木の標識が揺れる。
だがその奥に人の家らしきものはない。
「ドワーフの村……って……」
「ここが?」
俺たちの視線の先にあったのは、想像していた「村」とはだいぶ違っていた。
山をくり抜いて作ったトンネル。木で補強された道にトロッコの通るレールが敷かれ、壁にはたいまつが燃えている。
「まるでダンジョンだな」
「ダンジョンというより、鉱山跡地だね。ドワーフの連中はここをねぐらにしているんだよ」
馬車の運転手が教えてくれる。
「へぇ、そうなんだ」
「お嬢ちゃんがた。ドワーフの村に来るのは初めてかい?」
「はい」
「そうか。奴らはちょっと人付き合いは悪いけど、金払いはいいから頑張って稼ぐんだよ」
「ありがとうございます」
すると隣にいた若い冒険者が話しかけてくる。
「もしかして君たちも、この依頼を受けに来たの?」
青年が持っていたのは、俺たちが受けたクエストの依頼書と同じものだ。
「うん、そうなんだ。他にも同じクエストを受ける人がいたなんて」
「同じクエストを受ける奴らならたくさんいるよ。こいつらみんなそう」
青年は腕を広げて振り返る。俺たちも同じように振り返ると、そこには多種多様な武器を持った冒険者たちがズラリと並んでいた。
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