4-3章 お姉さまとドワーフの村

第10話 お姉様とドワーフの村

 俺たちはトロッコに乗せられ、まるで石炭か何かみたいにドワーフの村へと運ばれて行った。


「わぁ、凄い」


 ガタゴト揺れるトロッコの中で、モアが声を漏らす。


「ああ。綺麗だね」


 辺りは真っ暗で、所々チカチカと赤や青の光がまるで星みたいにみたいに瞬いている。

 俺が洞窟にできた小さな銀河に目を奪われていると、モアが小さく囁く。


「お姉さまのほうが綺麗だよ」


 モアの薄紫の瞳の中にもチカチカと星が瞬いている。白く滑らかな肌。大きな目をびっしりと縁取るまつ毛。俺はその輝きに思わず息を飲んだ。


「馬鹿だな、モアの方が綺麗で可愛いに決まってるじゃないか」


「いえっ、お姉さまのほうが綺麗で可愛いに決まってる!!」


「いやいやモアのほうが……」


「お姉さまのほうが……」


 俺たちが姉妹愛をささやかに育んでいると、トロッコがガタンと大きく揺れた。


「うわっ」

「きゃあっ」


 俺は思わずモアと抱き合う形になった。柔らかな温もり。香水なんかつけてないはずなのに、凄くいい匂いがするし、また胸が大きくなったような気が――じゃなくて!


「大丈夫か、モア、怪我は無かったか?」


「うん、大丈夫」


 大きな揺れとともにトロッコは停車し、どうやら目的地に到着したようだ。


 トロッコを降りると、そこにはすでに二十人ほどの冒険者たちでごった返していた。


「やぁやぁ皆さん、よく来てくださった!」


 立派な口ひげを蓄えたドワーフの男が出迎えてくれる。


「それで? 依頼書にはモンスター退治ってあったけど」

「どんな依頼だ?」


 冒険者たちが口々に尋ねると、ドワーフの男はオッホンと咳払いをした。


「まず、皆さんにはこれをみて頂きましょう」


「……ん?」


 男が取り出したのは宝石がジャラジャラと入った皮袋だ。


「なんだ? 報酬の説明か?」


 冒険者のうちの一人がニヤニヤしながら身を乗り出すと、いきなり皮袋が大きく飛び跳ねた。


「ケーケケケケケケケケ!!」


 皮袋の真ん中辺りがクパッと横に裂けたかと思うと、舌が飛び出した。


「モ、モンスター!?」


「さよう。このモンスターはギタイブクロという名前で、この通り宝石を入れる袋に擬態する」


 ドワーフのオッサンはギタイブクロを斧でズバリと切り捨てた。バラバラと、ギタイブクロが飲み込んでいた宝石が床に散らばる。


「その他にも、宝石に擬態するホウセキムシや、石のモンスターのイシツブテ、木箱に擬態するミミックモドキなんかのモンスターなんかもいる」


 モンスターのイラストの書かれた紙が一人一人に配られ、俺たちはじっとそれを見つめた。


「これらのモンスターは昔から居たものだが、今年は異常気象のせいか過去に例を見ないほどモンスターの数が増えている。君たちにはそれを退治してもらいたい」


 次にドワーフのオッサンは、俺たちに地図を配ると、何やら名簿を貼り付けた木のボードを奥から持ってきた。


「今から1から5までの5つのグループに君たちを分けるので、それぞれの持ち場で監督の指示に従ってモンスター退治をするように」


 地図と名簿にはそれぞれ番号が振られ、持ち場が一目で分かるようになっていく。俺たち冒険者たちも、適当に五、六人のグループに分けられ持ち場に着くこととなった。


「私たちは五番みたいだね」


 名簿で番号を確かめると、地図で持ち場を確認する。


「一番奥だな」


 冒険者たちが持ち場を確認しようとザワザワしていると、女性の声が聞こえた。


「五番の冒険者さんたちはこちらへ!」


「はい」


 女性の声のする方向へ向かう。


「五番担当の冒険者の方々ですね? どうぞこちらへ」


 ニコニコとトロッコへ案内してくれるドワーフのお姉さん。長い黒髪に、エキゾチックな模様の入った伝統衣装。カラフルなビーズが髪や大きく開いた胸元を飾っていてセクシーだ。


 俺がお姉さんの胸の谷間に視線を奪われていると、横でゴホンと咳払いの音がした。

 横を見ると、モアがジト目でこちらを見つめている。


「べ、別に胸を見てたわけじゃない! ビーズの飾りが綺麗だな~と……」


「ふーん」


 あっ、これは信じてない顔だ。


「こちらのトロッコにお乗り下さい」


「またトロッコに乗るみたいだぜ」


 お姉さんの案内の通りトロッコに乗りこもうとすると。そこにはスキンヘッドの男二人と、赤いコートに赤い帽子を目深に被った見覚えのある少女がいた。


「あれっ」


 俺たちが冬山で遭難したときに山小屋で会った猫耳少女・チトだ。


「チト」

「チトちゃん!」


「ミアにゃん、モアにゃん!」


 チトが俺に勢いよく抱きついてくる。


「にゃふにゃふ」


 鼻先を俺の胸に押し付けてくるチト。

 モアは涙目になった。


「うわーん! チトちゃんずるい!」


 いや、さっきまでお前も抱きついてただろ!

 甘えてくるチトの頭を撫でていると、ふとあることに気づいた。


 あれ? チトの猫耳がない……?


 するとドワーフの巨乳娘が叫ぶ。


「さ、行きますよー! 皆さんしっかり掴まってて下さいね!」


 ドワーフのお姉さんがトロッコの制御棒を動かす。ガタゴトと音を立て、風を切ってトロッコは動き出した。


「おわっ!?」

「きゃあ!」

「にゃんっ!」


 前と後ろから、チトとモアに思い切り挟まれ、おしくらまんじゅう状態になる。


「あのさ、チト」


 俺が話しかけようとすると、チトは人差し指を口にあて、しーと声を出した。


「詳しい話はあとでするにゃん」


 どうやらどうやら何か事情があるようだ。

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