第7話 お姉様と護衛任務
「護衛は三つに分ける。ミアとモアはフルウとともに真ん中の馬車に乗って近くでフルウを見張っていて欲しい」
クレーシーは地図を机の上に広げると、そんなふうに俺たちに作戦を説明した。
「ああ、いいぜ」
俺は護衛任務には慣れていないからはとりあえずクレーシーの案に従うことにする。
「俺は?」
マッスルが手を挙げる。
「マッスルとジャックは先頭で見張っていて欲しい。先頭は危険だからな」
「分かった」
「僕はお金が貰えれば何でも」
マッスルとジャックも特に文句は内容で、素直にクレーシーの言うことに従う。
「ところでクレーシーたちはどこで見張るんだ?」
俺が尋ねると、クレーシーはにやりと唇を上げた。
「私たちは一番危険な最後尾から馬車を見張る」
◇
そして翌日、ドワーフ娘の武器商人、フルウと俺たちを乗せた馬車は街を出発した。
三両編成の馬車の先頭にマッスルとジャックが、最後尾にはクレーシーとメレが、そして真ん中の車両には俺たちとフルウが乗る手はずになっている。
俺は馬車を引いている馬を見た。真っ白い毛は長くて目が青く光っている。聞くと、スノーホースという名の魔物で、寒さに強く、蹄にはスパイクのような突起がついていて滑り止めになっているらしい。
「じゃ、今日はよろしくね!」
フルウは笑顔で右手を差し出してくる。
「ああ、よろしく」
「よろしくねっ」
俺とモアはフルウの小さな手を握り返すと、席に着いた。
それにしても――真ん中の馬車は一番豪華だし、乗りやすい。でも、この作戦を思いついたクレーシーの言葉を思い出すと、何となく胃がムカムカする。
“先頭は危険だからマッスルたちに……私たちは一番危険な最後尾から見張る”
あの言い方だと、まるで俺たちが一番弱いみたいじゃないか!?
「……まあ、楽だしいいんだけどさ」
ぶつくさ言いながら革張りの豪華な椅子にどっかりと腰かけると、モアが可愛らしく小首を傾げた。
「どうしたの? お姉さま」
「あ、いや、別に?」
俺は慌てて視線をそらした。
「それにしても、一体なんでフルウは狙われてるんだ?」
俺が尋ねると、フルウは腕を組みながら不敵な笑みを浮かべる。
「狙われてるのはこれよ」
フルウが取り出したのは茶色いボロ布に包まれた長い何かだった。ぐるぐる巻きにしてある紐を解くと、ボロ布の中から一振りの黄金の剣が現れた。
「おお!」
「すごーい、高そう!」
キラキラと光る黄金の剣。その柄と鞘にはルビーやサファイア、エメラルドなどの宝石が贅沢に散りばめられており、豪華な薔薇の装飾までついている。
「でしょ? しかもこの剣、言い伝えによると悪魔の力を宿しているそうよ」
「悪魔の力……?」
瞬間、モアの影がゆらりと揺らいだような気がした。
「ま、ただの言い伝えだけどね」
フルウはウインクすると剣をボロ布の中に再びしまい込んだ。
「この剣はケモナ族の長に贈るためにドワーフ族の長が発注した特別な品なのよ。ドワーフ族とケモナ族は少し険悪な関係なの。とくにここ最近はね。でもこれを機に少しでも関係が改善してくれたらいいわね」
フルウはそう言うと、カバンから一枚の手紙を取り出した。
読むと「予告状」と書かれた手紙には、今日の午後、輸送中に悪魔の剣を手に入れる旨が書かれている。
「予告状ねぇ」
俺は予告状と書かれた紙を何度も眺めた。モアが不思議そうな顔をする。
「そんな面倒なことをしなくても、普通に盗めばいいのにね」
「全くだ」
俺たちが首を傾げていると、フルウはうなずいた。
「確かに。私も犯人の狙いが分からないわ」
息を吐き出すフルウ。
「だけど、屋敷にいる時じゃなくて移送中に狙うって言うのは筋が通ってるしフェイクでは無い気がするわ」
「どうして?」
「それは、私の屋敷には地中から組み上げた魔力で強力な結界を何重にも張ってるけど、移動中の馬車の中だとそんなに大層な結界も張れないからよ。私が強盗でもこのタイミングを狙うわ」
「なるほど」
一応筋は通っている……か。釈然としないことばかりだけどな。
ガタン!
と、馬車が大きく揺れた。
「な、何っ!?」
杖をギュッと握りしめるモア。
ヒヒーン!
続いて馬が雄叫びを上げた。ガタガタと馬車が揺れる。――かと思うと、馬車は目的地でもないのに突然停止した。
「――フルウ、俺の側に」
「う、うん」
俺はフルウを後ろに下がらせ、恐る恐る窓の外を覗いた。いよいよ敵襲か!?
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