第27話 お姉様とさらば百合の園

「本当に、学校を辞めてしまうの?」


 ツバキ様が、潤んだ大きな瞳で見つめてくる。


「うん、元々依頼を終えたらこの学校からは去るつもりだったから」


「そう」


 校庭には雪が積もり始めていた。


 あれからケイトの学園新聞によってことの真相は全校生徒の知るところとなった。

 ロッカは一時貧血にはなったものの大事には至っていない。

 そして――


「ツバキ様は、と残りの学校生活を楽しんで下さい」


 そう言うと、ツバキ様とその横にいたモズクが見つめあって顔を赤くした。


 俺たちがこの学園を去ることを知らせると、ツバキ様は妹を――次の姉4をモズクにすることを決めたのだ。


「でも、大丈夫だべか、わたすみたいな……」


 不安がるモズクの肩を俺は抱きしめた。


「大丈夫だよ、モズクは綺麗だし、頭も良くて心優しい女の子だ。姉4にぴったりだよ」


「そうよ。私が保証するわ。あなたはきっと素敵な姉4になる」


 ツバキ様もモズクの手を握り微笑む。


「そうだよー! 姉4にぴったり☆」

「子猫ちゃんは、まだ自分の魅力に気づいていないだけさ」

「フフ、あなたの文化祭の演技、素晴らしかったわ」


 カスミ様、サツキ様、スミレ様もモズクのことを祝福してくれる。


「みなさん……」


「大丈夫よ、分からないことがあったら私に聞いてちょうだい。何ったって副寮長だし。うちの寮の姉4が頼りないと困るからサポートしてあげる」


 そう言ってフンと横を向いたのはロッカだ。


「ロッカさん……ありがとうございます!」


 涙ぐむモズク。

 うんうん、良かった良かった。



「それじゃあな!」

「バイバイー!」


 皆に見送られ校門で手を振る。


 ここにいたのはたった数ヶ月なのに、随分と長く居たような気がする。


 量の中、校舎の中、教室、体育館、グラウンド。どこも思い出が沢山あって、思い出すだけで胸が苦しくなる。だけど――


「さ、行こうか、モア」


 荷物を手に歩き出す。

 グラウンドには、微かに雪が積もっていた。今年は雪が降るのが遅いと言われていたらしいが、今朝ついに初雪が降ったのだ。

 全く、門出に相応しい朝だぜ。



 パァン!



 すると、何か大きな音がした。

 見上げると、晴れ渡る冬空に、魔法でキラキラと輝く文字が浮かんだ。


『ミアお姉様、モアちゃん、またね』


 浮かび上がる文字を見上げていると、校舎の方から声がした。


「お姉様ー!」

「モアちゃーーん!!」

「またね!」

「また来てねーーっ!」



 校舎の窓からは、大勢の女生徒が手を振っていた。


「ああ、またな」

「またね!」


 手を振ると、腕にキラリと椿のブレスレットが光り、ほんの少しだけ胸が苦しくなった。


「さ、いこうか」

「うん」


 白くなり始めた道を歩き出す。真新しい雪に、二つの足跡が並んだ。



「さて、次はどこへ行こうか」


「寒くなってきたし、南の方とかどう?」


「逆に思い切って雪山に行くのはどうじゃ!?」


「ゲーッ! やだーっ!!」


 笑い声が響く中、俺たちは清く美しい百合の園を後にした。




【お姉様第三部 完】

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