第24話 お姉様と謎の石像
「残念ながら、秘密を知られた者には消えてもらうしかないわね」
「消えて……?」
俺は静かに、だがありったけの嫌悪を込めて言った。
「殺すの間違いだろ」
「ミアちゃん」
サツキ様がオロオロする。
「その人には逆らわない方がいい。そうすれば、君の命は――」
「ルルカさんと違って助かる?」
俺が言うと、姉4の顔色が変わった。
「まさか……ルルカさんはラヴィニア先生に?」
消え入りそうな声になるスミレ様。
どうやらルルカが死んだことは知っていても、それがラヴィニア先生の手によるものだとは知らなかったらしい。
「ああ。黒百合寮で姉5になるはずだったルルカ、彼女はラヴィニア先生に殺されたんだな?」
ラヴィニア先生は肩をすくめる。
「仕方ないわよ。彼女は天使様を裏切った。学園のために消えてもらうしかなかったの」
「クソが」
俺が吐き捨てると、どこからか声がした。
「そうじゃな。クソじゃ」
「誰だ!!」
ラヴィニア先生が振り返る。
蜘蛛の巣まみれの窓が開き、風でボロボロのカーテンがはためく。
その奥には、モアと鏡の悪魔、そしてケイトがいた。
いや、モアたちには万が一に備えて外で待機しているようにあらかじめ言っておいたけど、何でケイトまで?
鏡の悪魔が笑う。
「お主が崇拝しておったその像、それはな、はるか昔、勇者が魔王軍と戦った時に、敵の悪魔を封印したものじゃ」
「悪魔?」
「魔王軍!?」
少女たちが身を寄せ合う。
「乙女の血を欲しがるのは、血が魔力の塊だからじゃ。金属の塊で出来た像は外側から壊すのは難しい。血を流し込むことによって内側から力を得て封印を破ろうとしたのじゃろう。そしてゆくゆくは魔王軍を……」
ラヴィニア先生はキッと鏡の悪魔を睨んだ。
「うるさい。お前こそ……その姿は悪魔だな?」
「モアちゃん、あなた……」
姉4が困惑の目を向けるので、俺は慌ててフォローした。
「そいつはモアの使い魔みてーなもんだ。味方だよ。むしろ敵はラヴィニア先生のほうだ」
「ふん、おおかたその悪魔と組み、生徒たちを騙して、天使さまを――この学園を滅茶苦茶にしようとしてるに違いない! あんな奴の言うことを信じてはダメよ!」
肩をすくめる鏡の悪魔。
姉4たちとその妹は、困惑したように鏡の悪魔とラヴィニア先生を交互に見ている。
「妾がそんなことをして何の得がある? 愚かな人間め……いや」
鏡の悪魔の金の目が、月の光を受けて光る。
「もう、人間ではないのか?」
ラヴィニア先生の目が、赤く光った。
「私、小さい頃に母からラヴィニア先生の話を聞きました」
静かに語り出したのはツバキ様だ。
「母がこの学園に通っていた頃からラヴィニア先生は居たって。でもそのラヴィニア先生はおばあちゃんだったそうだから、今学校に居るラヴィニア先生はその娘か何かだろうって思ってたの。でも……」
「なるほど、悪魔の力で若返っていたのか」
俺がギリリと歯を噛み締めると、ラヴィニア先生はキッと俺を睨みつけた。
「それもこれも天使さま――この学園のためよ」
「いいえ、私利私欲のためだわ。貴女は、自分が若返るために私たちを利用していたのよ!」
ツバキ様が叫ぶ。ラヴィニア先生は、鬼のような形相でツバキ様を睨んだ。
「黙らっしゃい! 私の言うことを聞けないの!?」
激昴したラヴィニア先生が床から拾い上げたのは鞭だった。ラヴィニア先生は鞭を手にすると、ツバキ様に向かって振り上げた。
「――ツバキ!」
それを庇ったのはサツキ様だった。
ローブと白い制服が裂け、背中が露わになる。
「サツキ!?」
「サツキ、あなたまで……! 許しませんよ!」
抱き合うサツキ様とツバキ様の前に、カスミ様とスミレ様も手を広げ立ちはだかる。
「ずっと学園のためになる事をしてきたと思っていました。でも、間違いだったのですね。ツバキが嘘を言うはずもないし」
「危うく、可愛い妹たちも悪魔崇拝に加担させる所だったわ。本当にごめんなさい」
スミレ様とカスミ様は妹たちに頭を下げた。
「あなた達、この私を裏切る気!?」
青筋をたてて喚くラヴィニア先生。
「許さない……」
途端、風が巻き起こる。
「……ラヴィニア先生!?」
風は窓からではなく、ラヴィニア先生の方から吹いている。
メキメキという鈍い音。ラヴィニア先生が腕を上げるとその手に金色の杖が現れた。
髪を振り乱し、目を血走らせるラヴィニア先生。
「許さないわ!!」
ゾクリ。背中に悪寒が走った。
「ヤバい! 皆、逃げろ!!」
叫ぶと、姉4とその妹たちがドアから逃げ出す。
「逃がすか!!」
ラヴィニア先生が杖を振ると、まるで竜巻のような風の刃が巻き起こる。
「――武器よ!」
慌てて武器を呼び出す。
「でやっ!」
斧を振る。巻き起こる衝撃波が、ラヴィニア先生の風の刃とぶつかり相殺される。
「クッ……」
唇を噛み締めるラヴィニア先生。
「そう。邪魔をするのね。だったら容赦しないわ」
呪文を唱えるラヴィニア先生。
その顔が、体が、どんどん若返っていく。
「ふふ、どう? 天使さまの力でこんなことも出来るの」
酔いしれるように言うラヴィニア先生。
俺は吐き捨てた。
「可哀想に。醜いやつだぜ」
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