第23話 お姉様と代替わり式
「それでは、新しい姉4の皆さんに拍手を」
誰もが待ち望んでいた大舞台に、今俺は立っていた。
今日は新しい姉4への代替わり式。
今の三年生は姉4としての活動を終え、新しい姉4が皆の前でお披露目されていた。
広い体育館の中は歓声に包まれる。
「お姉様ーっ!!」
「キャーッ!! お姉様!」
「こっち向いて、ミアお姉様!!」
「やれやれ、今年の歓声はいつもに増してすごいな」
サツキ様が苦笑する。
「貴女の妹のせいではなくて?」
スミレ様がツバキ様に笑いかける。
「あら、そうかしら?」
「そうそう、彼女、人気者だもーん☆」
と、これはカスミ様。
「それでは、前姉4の皆さんから次の姉4の皆さんへ、百合のティアラの授与をお願いします」
三年生たちが四つのティアラを手に取る。
そして、俺たち二年生――新たな姉4の頭に被せた。
のしかかる重み。
胸の奥に、じぃんと熱いものがこみ上げてくる。
わぁああああああっ!!
沸き起こる拍手。
こうして、姉4の代替わり式は無事幕を下ろした。
――表向きは。
◇
「準備は出来ていて?」
「ああ」
深夜、こっそりと部屋にやってきたのはツバキ様だ。
黒いローブで体を覆ったツバキ様。まるで闇に溶け込むようだ。
チラリと布団の中にいるモアに視線をやる。俺は物音を立てないように静かに部屋を出た。
「今から行われるのが、本当の代替わり式よ」
ツバキ様の瞳が怪しく光る。
「はい」
「こっちよ」
二人で向かったのは、かつての黒百合寮だ。
今日は満月。赤く大きな月が、ポッカリと屋根の上に浮かび、その上を灰色の雲が流れていく。
暗闇の中、微かな月明かりに照らされた黒百合寮は、まるでホラーハウスみたいにおどろおどろしい空気を放っていた。
「あら、あんたたちも今来たんだ。良かった、遅れたかと思ったわ」
カスミ様とその妹と玄関の前で出くわす。
「こんばんわ。カスミ様たちも今来た所ですか?」
「うん。でも早く行きましょ。約束の時間に遅れちゃう」
時計の針はもうすぐ午前二時を刺そうとしている。
カスミ様たちと俺たちは立ち入り禁止の看板のかかったロープをくぐり抜けた。
ギィ……。
低い音がして扉が開く。
いつもは真っ暗で人の気配のない黒百合寮だが、廊下や階段には赤々と蝋燭の火が点っている。
ギシギシと古い床を踏みしめながら、ツバキ様やカスミ様の後をついて螺旋階段を登る。
「ここよ」
両開きの重い扉を押し開ける。
建物の最上階、以前はテラスとして使われていたというがらんと広い空間に、それぞれ黒いローブをまとった少女たちがいた。
サツキ様とその妹、スミレ様とその妹、カスミ様とその妹、俺とツバキ様、そして――
少女たちに囲まれるようにして立っている女性が一人。
「これで全員揃ったかしら?」
振り返る女性。黒いドレスを身にまとったその人は――
「ラヴィニア先生……?」
「皆さん、よくいらっしゃいました。今日は生徒の代表たる姉4の代替わり日――」
クイと、チェーンのついた眼鏡が押し上げられる。
ラヴィニア先生の真っ赤な唇は、三日月のような笑みを作った。
「そして新しい姉4の皆さんには、様々な面で学生たちの模範となり面倒を見るだけではなく、ある重要な役割を担って貰うことになります」
「重要な役割?」
顔を見合わせる妹たち。
どうやら姉4たちからは何も聞かされていないらしい。
「そう。まずはこれを見てちょうだい」
ラヴィニア先生は部屋の奥へと進む。
バサリ。
何か黒い布のような物を取るラヴィニア先生。ちょうどその時、雲が晴れ、窓から鮮やかな月の光が差し込んだ。
「何……これ」
月明かりの中浮かび上がったのは、人間の頭蓋骨を積み上げて出来た祭壇だった。
奥には、角と翼の生えた悪魔のような像が鎮座している。
「まさか……悪魔崇拝!?」
「悪魔? いえ、この方はこの学園の守り神、天使さまよ。強く清らかで美しい乙女の園を守る天使さま」
妖しげに笑うラヴィニア先生。
こいつ……何言ってやがる!?
「そして私は天使の命を受け、天使の力を取り戻すために美しく清らかな乙女の血を捧げているの」
「そんな……そんなことって」
「お姉様たちは知っていたの!?」
混乱する妹たち。
姉たちはそれには答えず下を向いている。
「ええ、もちろん。彼女たち四人も去年はずっと天使様に血を捧げ、その代わりに天使様からは魔力を分けてもらっていたのよ。そうして姉4としての強さや美しさを維持してきたというわけ」
答えたのは姉4ではなくラヴィニア先生だった。
「大丈夫、心配することないわ。天使様に捧げる血は注射器でほんの少しだけ取るだけ。多少貧血になるだけで命の心配はないし、姉4たちのような力を得られる。メリットしかないのよ」
妹たちが困惑したように顔を見合わせる。
「本当なの?」
「ラヴィニア先生、一体何を言ってるの? 冗談ですよね?」
妹たちの間に困惑が広がる。
「残念ながら、これは本当の話なの。ねえ、あなた達」
ラヴィニア先生の問いに、姉たちが静かにうなずく。
俺は尋ねた。
「もしもそれを断ったらどうなる?」
ラヴィニア先生は笑った。
「……残念ながら、秘密を知られた者には消えてもらうしかないわね」
そう、去年ルルカが亡くなったのは、このラヴィニア先生の誘いを断ったから。それが事件の真相だったのだ。
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