3-4章 お姉様と学園の吸血鬼
第20話 お姉様と不満
「おかしい」
俺がボソリと呟くと、モアと鏡の悪魔は同時に首を傾げた。
「何がおかしいの?」
「そうじゃそうじゃ。お姉様、なにか不満でもあるのか?」
「不満というわけでは無いんだけど」
俺は天井を向いて考え込んだ。
ツバキ様の妹となって一ヶ月。
初めのうちはお茶会の誘いもあった。そこで楽しく会話を交わしたりもしていたのだが、気のせいかもしれないが最近は妙によそよそしい気がする。
姉妹関係となったら、姉は妹に学校のことを教え、妹は姉の用事を手伝ったりスるという風に聞いていたのに、それもほとんどない。
「なんでツバキ様は俺に雑用を頼んだりとか、ご飯に誘ったりだとかしないのかな」
「でもツバキ様は元々人付き合いが苦手で姉妹関係とかめんどくさいって人なんでしょ? 気にしなくていいよ」
妙に上機嫌で慰めてくれるモア。
「モアはツバキ様とお姉様の仲が深まらなくてホッとしてるんじゃな」
意地悪く笑う鏡の悪魔。モアは顔を真っ赤にした。
「そ、そんなことないよ! これは依頼のためだもん!! 仮の学園生活だし、仮の姉妹関係だしっ!」
「そうだな。これはクエストのためだっけ」
姉4の妹になったのは、姉4に近づいて学園に潜む吸血鬼を探るためだ。
だが妹になったのに一向に吸血鬼の情報を得られないとあっては、今までの努力の意味が無いではないか。
かえって妹になる前のほうが、サツキ様やカスミ様も気軽に話しかけてきてくれて情報を得やすかったように思う。
うーん。
「よし、決めた。明日直接ツバキ様に聞いてみる!」
俺はこぶしを握り立ち上がった。
「おおー、お姉様やる気!」
「これで少しは依頼も進展するかの」
パチパチと拍手するモアと鏡の悪魔。
だが一体何を聞けばいいんだろう。
単刀直入に吸血鬼のことを尋ねる?
それとも黒百合寮のこと?
それとも……
◇
「ツバキお姉様!」
中庭にたたずむ見慣れた黒髪と白い横顔。
ツバキ様は俺の声にゆっくりと振り返った。
「あら、どうしたのそんなに急いで」
「えっと……あの……その……」
声をかけたのは良いものの、聞きたいことが沢山ありすぎて何から話したら良いものか。
「俺たち、姉妹になったじゃないですか……」
「ええ、それが?」
乾いた声が中庭に響く。
風が肌寒い。カサカサと落ち葉が音を立てる。
「えっと、姉妹になったからにはもっと仲良くなりたいなぁって。あの、雑用でも良いんで折角だから何でも頼んで下さいよ」
へへ、と笑うとツバキ様は大きなため息をついた。
「……あなたは、そんな事のために姉4の妹になりたがってたの?」
「へっ? いや」
端正な顔が、秋晴れの空に映える。
「あなたは、何か理由があって姉4に近づいたのでしょう?」
ツバキ様の真っ黒な瞳が俺を真正面から見つめる。
ゴクリと唾を飲み込んだ。
俺がこの学校に来た意図がバレてる?
それで俺に対して冷たかったのか。
「ち、違います。俺は――」
慌てて釈明しようとした俺だったが、ツバキ様はそれを遮った。
「いえ、別に責めている訳では無いのよ。だからこそ、私はあなたを妹に選んだのだから」
桜色の口元に、薄く笑みが作られる。
「えっ?」
それって、どういう――
「あなたがこの学校にやってきたのは、この学校の秘密を探るため、そうでしょ?」
「えっと……」
何と答えればいいものやら。ここで吸血鬼の話題を出しても大丈夫か?
「もうすぐ、姉4の代替わり式がある。そこで全ては明らかになるわ。だから、それまで待って頂戴」
そう言って、ツバキ様は長い黒髪を翻して去っていく。
「ツバキ様……」
どういう意味だ?
ツバキ様は、俺たちが学園に潜む吸血鬼を追っていることを知っているのか?
ツバキ様は――どこまで吸血鬼のことを知っている?
俺たちの味方なのか?
「とりあえず、代替わり式を待つしかないのか……?」
俺はポリポリと頭をかいた。
◇
「お姉様、お姉様大変っ!!」
数日後、モアが血相を変えて俺のクラスにやってきた。
「どうしたんだモア、用があるなら寮に帰った時に言えばいいだろ」
「お姉様、それどころじゃないのっ!」
だがモアは、肩で息をしながら俺に何か紙を押し付けてきた。
「これは――学園新聞?」
俺とモアは、廊下の端で一緒に学園新聞を広げた。
「う……これは」
学園新聞の一面には、大きく俺とツバキ様の顔。
そして
『姉4ツバキ様と百合の王子、破局の危機か!?』
という見出しがデカデカと踊っていた。
……何だこれ。
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