第4話 お姉様と姉4《あねフォー》

「では、次の人! どうしたの? 早く前へ!」


 ラヴィニア先生がヒステリックな声を上げる。


「は、はい!」


 俺は心臓をバクバク言わせながらまとの前に立った。


 さて、どうしようか。俺は魔法なんて使えないんだが。


「何をしてるの? 早くまとを狙いなさい」


 迷っていると、先生に促される。

 ええい、もうこうなりゃヤケだ!


「てやぁぁぁ!!」


 俺は思い切り拳を突き出した。

 ちょうど空手の型みたいな形だ。


 ゴウッ!


 途端、拳圧で風が巻き起こる。


 バリバリバリバリ……!!


 的が凄まじい音を立てて裂ける。

 それだけじゃない。


 ドォォォン!!


「あー……」


 どうやら少し力を入れすぎたみたいだ。後ろの壁にまで大きな穴が開く。


「なっなっなっ……」


 ワナワナと震えるラヴィニア先生。

 フッ、俺の実力に恐れをなしたか!?


「貴方、あの的がいくらするか分かってるの!? それに壁にまで穴を開けて!!」


 顔を真っ赤にして叫ぶラヴィニア先生。

 周りの生徒もクスクス笑ってる。


 あれ? 何か思ってた反応と違うな。

 もっとこう「すごーい」ってなるのかと……


「ま、ほら、この方が日当たりも良くなるし……?」


 笑って誤魔化すも、ラヴィニア先生は、キッと俺を睨みつける。


「バツとして、あなたは放課後残ってここで壁の修理をしてもらいます!」


 ゲゲッ、そんなのありかよ~!!


 ケイトはポンポンと肩を叩いた。


「なるほど、アンタの魔法は身体強化系なんやね。でも、もうちょっと力の加減を上手くやった方がいいで?」


 うう……。


「なぁケイト、放課後手伝う気とかない?」


 俺はケイトの手をギュッと握った。


「ない」


 ケイトは冷たくそっぽを向く。


「そこをほら、なんとか。何か奢るからさ」


「無理無理。ウチは部活あるもん。ほな!」


 手を振り、去っていくケイト。


 あーあ。こうなったら、放課後一人で練習場の修繕を頑張るしかない。転入早々、散々だぜ。


「ま、頑張ってな!」


 ケイトの笑い声が、広い練習場にこだました。




「クソっ、どうして俺がこんな目に~」


 釘と木の板で先生に言われた通りに壁の穴を塞ぐ。


「はぁ。可憐できらびやかな女子校生活を送るはずだったのにな」


 だが現実は、体操着に釘とトンカチで大工まがいのことをするハメに。全く、土方じゃねーっての。


「それにしても、異世界にもブルマってあるんだな」


 俺は窓ガラスに写ったブルマ姿の自分を見つめた。


 長い脚。太すぎず細すぎず絶妙なバランスの太もも。美しい丸みをおびたヒップ、まずい。うーん、美少女!!


 クソっ、ラヴィニア先生、さては俺が美少女すぎるから嫉妬してるんだな!


 今に見てろ! 教室のドアに黒板消しデマ挟んで、入ってきた瞬間粉まみれにしてやるからな!


 ガキン!


「痛たたたたたた!」


 そんな妄想をしていると、思い切り指をトンカチで叩いてしまう。


「痛ぇーーーっ!!!!」


 俺が涙目になっていると、いきなり背後から声をかけられた。


「大丈夫かい? 子羊ちゃん」


 へ??


 振り返るとそこには、ショートカットで長身のものすごい美少女がいた。


「え? えっと、はい……」


 この人、どこかで見覚えが。

 俺は、昨日寮の窓から見た光景を思い出した。


 あ、そうだ! 姉4のうちの一人の


 ちゅっ。


 俺が考え込んでいると、ショートカットの美少女は、おもむろに俺がトンカチで打った人差し指を口に含んだ。


「!!!!????」


 ちゅっ、ちゅっ。


 俺の指を舐める美少女。


 え……えええ……な、何なんだこの人。

 俺が少し引いていると、美少女はニッコリと笑った。


「大丈夫かい? 痛かっただろう……?」


 キラキラと背後に花や星のエフェクトが飛んだ……ような気がした。


 ああ、なんだかこの感じ、どこかで……あ、そっか。レオ兄さんに似てるんだ。


 まぁ、レオ兄さんと違って女の子だからか、そんなにムカつかないんだけどさ。何か変な人だ。


 それにしても、美少女なんだけどなんだか変わった人だな。ボーイッシュというか、宝塚の男役って感じ。


「サツキ! こんな所で何やってるのよ!」


 校舎の方からピンク髪のツインテールを揺らした小柄な少女が走ってくる。


 シマシマのニーハイに、ツインテには大きなリボンを飾ったりして、かなりロリロリな感じだ。多分パンツもシマパン。


 この子も見たことある! 姉4だ! 姉4のメンバーが二人も!!


 俺がワタワタしてると、ロリツインテがキッと宝塚をにらんだ。


「サツキ、あんたったらまた下級生にセクハラしたのねー」


「ち、違うよカスミ。この子、トンカチで指を打ったって言うから!」


 俺の指をロリ……じゃなくてカスミ様に見せる宝塚ことサツキ様。


 赤く腫れた指を見て、カスミ様は目を見開いた。


「まぁ、痛そう! 早く冷やさないとダメじゃない!」


 そう言うと、カスミ様は俺の手をぐいと引っ張った。


「ついて来て! 今すぐ冷やすから!」


「は、はい」


 呆然としながらカスミ様について行く。が、指を冷やすと言ったはずなのに、校舎からどんどん遠ざかっていく。


「あの、一体どこへ?」


 俺が尋ねると、カスミ様じゃなくサツキ様がウインクする。


「決まってるだろ、『白百合の園』さ」


「し、白百合の園??」


 二人に促されついて行くと、やがて白い柱の小さな温室みたいな建物にたどり着いた。


 ここが白百合の園? 温室で百合の栽培でもしてるのかな。


 ギィ……


 カスミが温室のドアを開く。

 ふわり、むせるような百合の香りが鼻の奥まで広がる。


 中には数え切れないほどの百合百合の花。


 そして中央の白いテーブルとイスでは二人の美少女がお菓子と紅茶を飲んでいる。


 長い黒髪の少女が顔を上げる。ツバキ様とかいう人だ。それともう1人、長い金髪で大人っぽいグラマラスな人。彼女も確か姉4だ。


 つまり、姉4全員がこの温室に揃っていた。


「ほら、あそこに噴水があるでしょ? あれ実は地下水なの。この学校で一番綺麗で冷たい水なの」


「あ、ありがとうございます」


 言われた通り、水の湧き出しているところに指をひたす。氷水みたいにひんやりとしていて気持ちがいい。


「あら? カスミ、その子はどなたでして?」


 金髪の少女がカスミ様に尋ねる。

 カスミ様は肩をすくめた。


「なんかねー、ケガしちゃったみたい。それとー、サツキにセクハラされてた!」


「失礼な。セクハラなんてしてないから!」


 するとツバキ様が俺のことを見て目を見開く。


「あら? そう言えばあなた今朝の」


「あ、はい。今朝はありがとうございます」


 俺が頭を下げると、カスミ様が驚く。


「え? 何、何? 知り合い!?」


「ほら、あの今朝ツバキがタイを直した子では無くて?」


「ああ、なるほど! 例の転校生ね!」


「そっか、それじゃあボクたちのことも分からないよね」


 サツキ様が四人のメンバーを紹介してくれる。


「そこの黒髪のロングヘアーが、生徒会長のツバキ。通称椿姫。白百合寮の生徒代表でもある」


 ツバキがぺこりと頭を下げる。


「そこの小さいピンク髪ツインテールがカスミ。赤百合寮の代表」


「小さいは余計よ!」


 小さい、なんて紹介したサツキ様にカスミ様がくってかかる。


「こう見えても意外としっかりしてて、生徒会の副会長もしてるんだ。そしてボク、サツキとそこにいる金髪の――スミレが書記。それぞれ青百合寮と黄百合寮の代表だよ」


「そうなんですか。あの、ここは」


 俺が呆気に取られながら尋ねるとサツキ様が答える。


「ああ、ここは我々のたまり場みたいなものさ!」


「正しくは第二温室」


 と、これはツバキ様。

 カスミ様はいたずらっぽく笑う。


「とは言えー、私たち以外はめったに来ないから、溜まり場みたいなもの、って言うので間違いないんだけどね☆」


 そして最後に、スミレ様が妖艶な笑みを浮かべて言った。


「ようこそ、私たちの秘密の花園へ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る