第39話 お姉様と蘇りし悪魔
「オディル!!」
真っ赤な血とともに、黒髪の剣士が崩れ落ちた。
「だ、大丈夫だ」
今にも死にそうな声で呟くオディル。
大丈夫って。腹部に短刀が刺さってるんですけどー!?
オディルは痛みに顔を歪めながらもベルくんの体を持ち上げる。
「 おいおい、大丈夫かよ!」
俺は慌てて祭壇に駆け寄った。するとオディルは岩の祭壇からベルくんを転がし落とす。
「逃がすかっ!」
それを見た海の悪魔は、今度はオディルの背中に向かって短刀を突き立てようとした。
「オディル!」
俺はとっさに短刀を蹴り落とした。
カランコロンと地面に転がる短刀。
鬼のような形相で俺を睨みつける海の悪魔。
「――貴様!」
その隙に、モアが呪文唱える。
「――ウインド!」
緑の風が巻き起こる。
モアの魔法で、竪琴はバラバラに砕け散った。
その隙に俺は祭壇からゴロゴロと転げ落ちたベルくんの体をキャッチする。
――が
「オディル、大丈夫か?」
オディルの顔色がヤバい。真っ青だ。
「ああ、何とか」
本当だろうか? なんか、腹部からやけに出血してるように見えるけど――
「とりあえず、ここは俺たちに任せて休んでて」
「ああ、そうする」
大人しく元来た道を戻るオディル。俺はほっと息を吐き出すと海の悪魔に向き直った。
「生贄は助け出したし、竪琴も破壊した! さあ、大人しく――」
俺は言いかけたが、海の悪魔があざ笑う。
「ククク、お前は馬鹿か?」
「何っ!?」
何だ。何だこいつ。何が言いたい!?
「生贄の儀式に必要なのは血――」
クスリと笑う海の悪魔。
ドキリ。心臓が鳴る。
俺は祭壇を見た。まさか。オディルの腹部から溢れ出た血が、魔方陣に赤い染みを作っている。
「本来ならば、人間ひとり分の血が必要なところだが、その人間は普通の人間よりも魔力が強いと見える」
祭壇の上、青白く光り出す魔方陣。
それと同時に、祭壇の奥の大きな岩が縦に裂け扉のように開く。
と、同時にネーニャの口から、オディルの口から出てきたような透明なウミウシが飛び出した。
うえっ!
ネーニャの体は祭壇から糸が切れた人形のように崩れ落ち、ウミウシは祭壇から溢れ出る光の中へと飛び込んで行った。
俺は怪しい光に巻き込まれそうになっていたネーニャの体を慌てて抱きとめ、後に下がった。
「お姉様!!」
モアが崩れ落ちていく祭壇を指さす。
ゴゴゴ、と扉のように開いた岩。
その奥から青い光と、じっとりと湿った霧が流れ出してくる。
やがて魚の腐敗したような匂いと共に、霧の中からウネウネとした紫色の触手が岩の間から這い出してきた。
「あれが、海の悪魔の正体!?」
現れたのは、幽霊のように真っ白な体に紫色のイボのついた、巨大生物だった。
体は一見してヒトデの様だが、長い触手をウネウネと動かすその姿はイソギンチャクのようにも見える。とにかく気持ち悪い。
「……ここは?」
すると先程まで悪魔に取り憑かれていた人魚の青い瞳が元の輝きを取り戻す。どうやら祭壇の開く大きな音と濃厚な磯の匂いに目を覚ましたらしい。
俺はほっと息をはいた。
「どうやら元に戻ったみたいだな」
「僕はどうしてここに!? な、何、あの化け物は」
床に転がっていたベルくんも目を覚ます。良かった。無事みたいだな。顔色は随分悪いが。
「説明は後だ。それより二人とも、下がってろ」
俺はベルくんとネーニャを下がらせ、武器を構えた。
「チッ、不気味なヤツだぜ」
俺が呟くと、ヒトデの胴体がパックリと割れて口が現れ、そこからおぞましい声が聞こえてきた。
「フフフ……ハハハ! 元の体を取り戻したぞ!」
やべーな。ついに海の悪魔が復活しちまった!
「ハハハハハハハ! こうなればもう貴様らには用はない! 皆殺しだァ!!」
唸る触手。しなりながらこちらへ飛んできたそれは、黒いオーラを纏いながら地面を粉砕した。
「きゃあ!」
モアがその衝撃で吹き飛ばされる。
「モア!」
「てやっ!」
ベルくんが腰から剣を抜き触手に突き立てるも、触手はビクともしない。
「ダメだ! 強すぎる……ねぇ、逃げようよ」
懇願するベルくんを無視し、俺は武器を構えた。
「でやあああっ!」
地面を蹴り飛び上がる。重力の加速を借り思い切り斧を叩きつける。真っ二つになる触手。
「よしっ」
――が
「再生してる!?」
見ると、俺の攻撃でちぎれたはずの腕がウネウネと蠢きながら数秒の内に再生した。
「マジかよ!」
俺は唇を噛んだ。
いよいよ復活した、遠い昔に封じられし海の悪魔。
くそっ! こんなやつ、どうやって倒すんだよー!!
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