2-7章 お姉様と海の悪魔
第35話 お姉様と海底神殿
「あ、いたいた! あそこにいるのが先代の船長です!」
港の寂れた飲み屋。その薄暗い灯りの中に、腰の曲がったしわくちゃのおばあちゃんが居た。
「あの人が?」
どう見ておも人の良さそうなただのおばあちゃんで、海賊には見えない。
「アリエッタ元船長ー!」
アンが声をかけると、お婆さん、もとい元船長はしわくちゃの顔をさらにしわくちゃにした。
「元船長はおやめ! アリエッタでいい!!」
「す、すみません!」
「それで? わざわざ私に会いに来るとは、どういう了見だい?」
にやりと笑うアリエッタに、俺たちは不思議な魔法陣と洞窟のことについて話をした。
「なるほど。確かにそれは、ひょっとすると悪魔の海底神殿かもしれないな」
「その、悪魔の海底神殿って何なんです?」
アリエッタは、大きく息を吸って話し始めた。
「昔、この地が魔族に支配されていた頃、一人の漁師と人魚の娘が恋に落ちたのだそうだ」
アリエッタによると、恋に落ちた二人は順調に交際を重ね、結婚間近だったのだそうだ。
だけれども人魚族の長はそれを許さなかった。彼は人間軍のスパイだという噂を立て、ある日彼は殺された。
「人魚は魔王軍側だったんですか?」
モアが尋ねると、アリエッタは首を縦に振った。
「積極的に人間を殺して回ったりはしなかったけど、魔王軍には協力的だったらしい。魔王軍の政策は基本的に魔物優遇だったから」
「そうなんだ」
「恋人を殺された人魚は、人魚の長を殺し、彼女を慕っていた他の人魚も殺して回った。たちまち、人魚族の巣は血の海と化し、恋人を失った人魚は悪魔となったのだそうだ」
「恐ろしい話だぜ」
「で、その悪魔はどうなったの?」
アリエッタは酒をぐい、と飲み干した。
「それが、魔王討伐と同時期に、どこかの島に封印されたっていう話だ」
ニヤリと笑うアリエッタ。
「ベルくん……。あの海底神殿にいるのかな?」
考え込むモア。
「かもな。二階付近で消えたって言うし」
でも、だとしたらベルくんはあの隠し扉の仕掛けを突破しなきゃいけないはずなんだけど、一体どうやって?
「ともかく、もう一度あそこに行ってみようぜ」
「うん」
*
翌朝、俺たちは昨日取った海藻を売り回復薬に変えると、海賊船に乗って再びあの城があった辺りの海域へと向かった。
モアが防水魔法をかけていると、アンとメリッサ、マリンちゃん、グレイス船長がやってくる。
「本当に二人で大丈夫ですか?」
「こちらから何人かお供につけようか?」
「いや、大丈夫だ。ありがとう」
人数が増えると、その分モアの魔力消費も激しくなるしな。
「じゃあ、ありがとな」
「行ってきまーす!」
モアと二人で海に潜る。が――
「うわっ!?」
潮の流れが強い。どんどん流される。
波に飲まれた俺たちは、いつの間にか島の海岸に打ち上げられていた。
俺たちが流される所を見ていた海賊船が再び引き返してくる。
「お姉様、大丈夫ですか!?」
アンが駆け寄ってくる。
「大丈夫だ。でも、潮の流れが速くて潜るのはかなり難しそうだな」
「もしかして、海のダンジョンから行かなきゃいけないってことなのかな?」
モアが首を傾げる。
「多分な」
恐らく、あの隠し扉のレバーは罠じゃなくてあの城へ向かうための移動装置なのだろう。
「悪いが、俺たちを海のダンジョンのあるアレスシア島まで連れて行ってくれないか?」
遠回りだが、仕方がない。
こうして俺たちは、再びアレスシア島に戻ってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます