第32話 お姉様と海のダンジョン

 翌朝、俺たちは冒険者協会近くの宿屋から海のダンジョン行きの船が出ているモネの港まで馬車で向かった。


「このパンフレットに直行便があるって書いてあるよ!」


 嬉しそうに冒険者協会でもらったパンフレットを指さすモア。


「直行便かあ。えらく便利なこって」


「料金はいくら位かかるのかなあ?」


「さあ」


 宿の代金もあるし、馬車での移動代、船代もあるとすると、下手するとクエストをこなしてもそんなに手取りはそんなに多く貰えないかもしれない。


 俺たちはブローチの件でセラスから報酬を貰ってるからいいものの、普通の冒険者はキツいかもなあ。


 でもポイントを稼ぐにはクエストをこなすしかないし、冒険者ライフも楽じゃない!


「いいカモなのかもな。C、Dランクの冒険者ってのは」



 港につくと、そこには安っぽい装備の、いかにも初心者といった感じの冒険者で溢れていた。


「あれが海のダンジョン行きの船だな」


 時間を調べると、朝、昼、夕方の三便出ているようだ。


「すごいなー。一日三往復」


 見ると次に出る昼の便まで少し時間がある。


「ベルくん、この辺りにいたりしないかな?」


 俺が辺りを見回しているとモアがボソリと呟いた。


「やっぱりお姉様はショタコン……」


「違う!! 仕事だから! 依頼だから!!」


 どういう訳か、モアはまだ勘違いをしているようだ。やれやれ。


「じゃ、じゃあ、オディルみたいな年上の人がいいの!?」


「違う違う」


 モアは目をウルウルさせてこちらを見つめる。


「じゃあじゃあ、あのハゲのおじさん!?」


「なわけないだろー!!」


 何でそういう思考回路に至るんだろう。謎だ。モアってば心配性なんだから!


 気を取り直して、俺たちは空き時間にしばらく港で聞き込みをした。


 が、ベルくんの目撃情報は無い。全く、どこへ行ったんだ?


「そろそろ船の出発する時間だよ」


「ああ」


 モアに促され船に乗る。


 海のダンジョン行きの船は小型の遊覧船っぽい作りで中には十五人ほどの冒険者が乗っている。


「今日はこれでも少ないほうだよ」


 船頭さんが教えてくれる。


「すげぇ人気なんだな」


 周りの冒険者たちは冒険を始めたばかりと言った感じの若者が多い。


 俺は隣にいた女の子二人組に声をかけた。


「なあ、ベルくんて子を知らないか? 銀髪で青い目の」


「うん、知ってるよ」

「つい最近会ったばかり」


 あっさりと返事をする女の子たち。


「えっ!? 本当か?」


 これは有力情報ゲットだぜ!


「私たち、この船で出逢って、ランクも年も同じくらいだったのですぐに打ち解けて。ねぇ」


「でも、一緒に海底神殿に潜ろうって言ってたのに、神殿の地下二階あたりで突然消えちゃったの」


「突然消えた?」


 そんな話をしているうちに、船は海のダンジョンのあるアルセア島に着いた。


「うん。それからは会ってないかな」


「そうか。ありがとよ」


 やはりベルくんはここに来ていたのか。


「有力情報ゲットだね」


 浮かれるモア。


 この分だと、案外簡単に見つかるかもな。突然消えたってのが気がかりではあるけど……


 船を降り、船着場から少し歩くと、目の前に黒い岩肌が見えてきた。


「あそこが海のダンジョン?」

「入口は地上なんだな」


 俺とモアが顔を見合わせていると、隣りにいたおじさんが教えてくれる。


「お嬢さんたち、ここは初めて? このアルセア洞窟の中にある地底湖が海のダンジョンに繋がっているのさ」


「へぇ、そうなんだ」


 洞窟の中の地底湖か。なんだかワクワクするぜ。


「海のダンジョンの中では息できるんですか?」


 モアが尋ねる。


「できないよ」


 あっけらかんと答えるおじさん。


「ダンジョンは海に沈んでるからね。入るには水の中で呼吸できる魔法を覚えるか、魔道具を買わないと」


「ゲゲッ、そうなのか」


 またしても出費がー!!

 俺が声を上げるとおじさんはクックッと笑って俺の肩を叩いた。


「大丈夫だよ。洞窟の前には魔法を売る屋台が出てるから」


「屋台?」


「ほら、見えてきた」


 おじさんが指さす方向を見る。真正面にはポッカリと口を開ける洞窟。そして……


「ただ今整理券をお配りしてますので少々お待ち下さいー!」

「こちら、水の魔法のスペルブック、50セルでいかがですかー!」

「貼るだけで呼吸ができる護符! なんと100セル!」

「こちらのマスク、息ができるだけじゃなく会話も出来ますよー!」


 沢山の商売人でごった返していた。

 何だか雰囲気ぶちこわし!


「とりあえず、モアは水魔法を使えるし、スペルブックでも買っておくか」


「うん」


 とりあえず水の魔導書を買い、洞窟への列へ並ぶ。


「次の方、どうぞー!」


 促され、洞窟に進む。辺りは松明でほんのりと明るく、矢印のガイドに沿って進むと、程なくして真っ青な光を放つ地底湖が現れた。


「わあ、綺麗ね!」

「ああ」


 なるほど、半ば観光地化してるのも頷ける。珍しいし、綺麗だもんな。


 順路の矢印は、下を指している。


「ここから潜るみたいだな」


 ゴクリと息を呑む。

 いよいよ、海のダンジョンへ出発だ!

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