2-6章 お姉様と海のダンジョン

第31話 お姉様と水の都の冒険者協会

 翌朝、俺たちはベルくんを尋ねてロレンツ海賊団へと向かった。


「ベルくん? ベルくんならいないぞ。昨日のうちに海賊団を辞めたって話だが」


 若い下っ端の海賊に尋ねてみると、そんな返事が帰ってくる。



 「そっか。もう目的の品を手に入れたわけだから、海賊団にいる理由もないか」


 モアがガックリと肩を落とす。

 すぐに見つかると思っていたのになぁ。


 すると若い海賊が、俺の顔をマジマジと見た。


「あっ、君、もしかしてベルくんのお姉さん? よく見ると少し似てるし! こっちの子も」


「あ? うん、まあ」


 俺が苦笑いを浮かべると、若い海賊は親しげに背中に手を回してきた。


「だよなー、やっぱり、そうじゃないかと思ったんだ! どうだい? そこの酒場でゆっくりオイラとベルくんの行方について話を……痛っ!」


 俺はそんな男の手の甲を思いっきりつねってやる。


「話は分かった。ありがとな!」


 俺はそそくさとその場を後にする。やっぱり、女の姿だとナンパとかされるから面倒くせーな。


「お」


 すると、見慣れたハゲ頭が目に入る。俺と一緒に、おっパラに行ったアイツだ。


「おーい! 久しぶりだな!」


 手を振ると、ハゲ男がキョトンとした顔をする。


「ん? どこかで会ったか?」


「ほら、一緒におっパラで……」


 そこまで言って、気づく。そうだ。おっパブに行ったのはオディルの姿でだった!


「あっ、もしかして、おっパラで働いてるお姉ちゃんか!? ガハハ、悪い悪い、どうも俺は女の子の顔を覚えられなくて。そうだ、おっぱい見せてくれたら思い出すかも! ゲヘヘ」


 俺は思わず右ストレートをハゲ男の顔面に叩き込む。一瞬でもこんな男を懐かしいと思った俺が馬鹿だった!


「行こう、モア」


 モアの手を引く。


「……お姉様」


 だが、モアの様子がおかしい。


「おっパラで働いてたって……どういうこと!?」


 ち、違う!!


「モア、誤解だ」


 だが、モアの妄想は止まらない。


「まさか、お姉様があられのないセクシーな格好でポールダンスやストリップを!? そそそんな駄目っ!!」


「モア、鼻血が」


 何故か興奮しだすモア。

 もー、訳が分からん。


「お前ー、何女の子と話してるんだよ!」

「こんな可愛い子たちと知り合いなのか?」


 しかも周りに次々と男海賊たちが集まってくる。


「いや、俺も覚えが」


 しどろもどろになるハゲ頭。

 俺はふざけてウインクをするとその場を離れた。


「じゃあね、お兄さん♡ また会いましょっ! チュ♡」


 俺が投げキッスをすると、ハゲ男が顰蹙ひんしゅくを買う声が聞こえる。


「い、いや、俺もあんな娘覚えは」


 男海賊たちにもみくちゃにされるハゲ。


「何だか、凄いことになってるね」


「ははは」


 ハゲには申し訳ないが、ちょっと楽しい。

 でも……


「さーて、この後、どうすっかなぁ」


 ベルくんの手がかりが、まるっきり無くなってしまったぞ。




「おおー、ここがセシルの冒険者協会か!」


「綺麗だね!」


 次に俺たちが向かったのは、セシルの冒険者協会だ。


 大理石の床に白い壁。それだけでも綺麗なのに協会内には所狭しと水槽が飾られていてまるで水族館のようだ。


「見てこれ、キラーフィッシュじゃない?」


「本当だ! A級危険生物だってさ。道理で」


 他にもアンを襲っていた巨大タコの子供や小型の水生生物、海竜の骨が展示されているブースを抜けると綺麗な受付嬢の並ぶブースが現れる。


「ベルくんの手がかり、得られるといいね」


「でも、ベルくん、冒険者になりたいって言ってたんだし、それならまず冒険者協会に来るんじゃねーかな」


 そんな話をしながら奥へと進む。


「あれ、あの子は」


 すると、冒険者協会の受付嬢に目が止まる。


「いらっしゃいませ~。セシル冒険者協会へようこそ~」


 その顔には見覚えがあった。森の都フェリルの冒険者協会で受付嬢をしていた......


「あれっ、エルさん!?」


 俺が叫ぶと、受付嬢はキョトンとした後、大きな口を開けて笑った。


「あはは。私はエラ。エルの姉よ」


 エルさんのお姉さん!?


「えー、そっくり!!」


「うふふ、良く言われるわ~」


 でも確かに、エルさんよりも少し大人っぽく見えるし、エルさんが緑がかった髪なのに対し、エラさんは少し青みがかった髪をしている。


「私たちも姉妹なんだ」


「あらそうなの。姉妹で冒険なんて楽しそうで良いわね」


 微笑むエラさんについつい頬も緩む。


「えへへへ」


「お姉様、鼻の下が伸びて……」


 モアの冷たい視線。


「そんなっ、気のせいだぜ! 一番可愛いのはモアだし!」


 エラさんはそんな俺たちのことなど気にもとめてない様子で、ニコニコしながらクエストのファイルを見せてくれる。


「それで、どんな依頼をお探しかしら?」


「あの、ここにベルって冒険者、来てないかな? 銀髪で、モアと同じくらいの身長の……」


「うーん、ごめんなさい、冒険者の情報は第三者に教えられないの」


「そうか」


 そう簡単に個人情報は教えられないか。そうだよな。


「でも、冒険者になったばかりの駆け出しなら、みんな大抵海のダンジョンに行くんじゃないかしら?」


 そういえば、オディルも海のダンジョンがどーたらとか言ってたな。


「なるほど、じゃあ、そこに行ってみるか」


「ねぇお姉様、それだったらベルくんを探すついでに、他のクエストも受けようよ」


「そうだな」


 個人で引き受けたクエストは、金にはなるけど冒険者ランクを上げるポイントにはならない。


 ここらでもう少しポイントを稼いでおかないと、いつまでもCランクだ。


「じゃあ、Cランククエストで良いのありますか? その、海のダンジョンで達成できるようなのだと良いんですが」


「少々お待ちください」


 エラさんが後ろの棚から巨大なファイルをだしてくる。


「海のダンジョン――正式名『アルセア海底遺跡』は、大昔の遺跡なんだけど、敵もそんなに強くないし、回復薬の材料にもなる海藻や貝殻の収集といったC~Dランクのクエストが沢山あるの。どれがいいかしら」


「なるほど。じゃあ、これで」


 とりあえず海藻採集のクエストのチラシを手に取る。


「これと貝殻集めのクエストを何回かこなせばBランクに上がれるだけのポイントになると思うわ」


「おおっ、そうなのか!」


 Bランク!


 ああ~、早くBランクの冒険者になりたいぜ! いつまでもCランクなんて格好悪いもんな!


 するとエラさんが俺に向かってすまなそうに笑う。


「あら、ごめんなさい。Bランクに上がれるのは妹さんだけだわ。貴方はもうちょっとポイントが必要ね」


「あ、はい」


 そうだった!


 冒険者免許を取ったスタート時点からして俺とモアとではポイントに差がついているのだった!


 とりあえず、地道に頑張るか。

 クエストの受付を済ませ、他に何か無いか協会の中を見て回る。


「ねえ、見てこれ!」


 そこには「キラーフィッシュ討伐クエスト。対象:A~Bランク」と書かれている。


「ええ~!? キラーフィッシュなら沢山ぶち殺したんだけどっ!」


「ね~、勿体無い!」


 他にもアンが捕まっていたあの巨大タコの討伐なんかA~Sランクだし、「魚人討伐クエスト」や「海竜討伐クエスト」など、上のランクには面白そうなクエストが沢山ある。


「なーんか損してる気がするなあ」


「ねー。早く上に上がりたいね!」


 こうして俺たちは、ベルくんを探しに、そしてBランクに上がるため、海のダンジョンへと出かけることにしたのであった。

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