2-4章 お姉様と謎の鳥

第22話 お姉様、元の姿へ

「で、どうだった? ロレンツ船長の部屋は」


 部屋に戻った俺はベルくんに尋ねた。


「残念だけど、目当てのものは無かったよ」


 ベルくんはクッションをギュッと抱きしめると首を横に振った。


「そうか」


「でも気になるものは見つけたよ」


 真剣な表情で窓を見つめるベルくん。

 俺は思わず身を乗り出した。


「何だ」


「船長室の窓だよ。板で丸ごと覆われていたんだ。まるで誰かに壊されたみたいに」


 窓?


「何者かが、船長室の窓を壊して侵入したってことか?」


 俺は、グレイス船長の部屋の様子を思い出した。


 妙に薄暗かったが、あれはもしかして同じように窓が壊され板張りになっていたから?


「グレイス、ロレンツ、両方の部屋に誰かが侵入した?」


 一体誰が?





「お姉様~!」


 次の港。待ち合わせ場所に着くと、モアが一目散に走ってくる。


「モア♡」


 俺はモアを抱きしめようとしたが、これはオディルの体だったと思い止める。


 あー、早く自分の体に戻りたい!


「ふう、ようやく元の体に戻れる」


 オディルも同じ思いなのかため息をつく。


 ……が。


「なんだその格好は」


 俺はオディルの入った自分の体をまじまじと見た。


「え? この服?」


 がきょとんとした顔で首を傾げ、俺を見上げる。


「いや、変というか」


 変ではない。変ではないけれど……


 白ののフリルたっぷりのワンピースに、

 ピンクのリボンのついたヘッドドレス。髪の毛はツインテール。

 同じくリボンのたっぷりついたピンクのサンダルと日傘。


 そこには、極度にガーリーになった俺がいた。何これ!? ロリータファッション?


「変だろうか? あまり露出が高いと体を冷やすし」


 オディルは「若い娘というのはこういう格好を好むに違いない」とか考えて服を選んだんだろうか……俺の好みとは180度違ーう!


「いや、別にいいけどさ」


「ちゃんとお淑やかに振舞ったし、周囲に怪しまれないように、船にいる間は極力喋らないようにしてニコニコして過ごしてたから安心して」


 親指を上げるオディル。


 いや、それ逆に怪しいんだけど。


「あ、そうそう、モア、ちゃんと着替えの時もお姉様の体を見ないでってお願いしたの!」


「え? 俺は別にいいだろ。俺の姿とは言え、俺の体じゃなくてオディルの体だし。大変だろ、体を見ずに着替えたりすんのは」


 オディルは慌てふためく。


「そうはいかんだろ。嫁入り前なのに」


 そういうもんか?


「オディルさん凄いんだよー、ほとんど見ずにブラジャー外したりも出来るし」


「こ、こら」


「ふーん」


 意外と女に慣れてんのか? それとも案外年くってるっぽいし、そんなもんなんだろうか。


 俺もあのおっぱい美女ともっと色々やっておけば良かったな。どうせ童貞じゃないだろうし、別に構わないだろう。


「それよりもそっちは、大丈夫なんだろうな? 変なことしなかっただろうな」


 なんか、色々としたような気がするけど、多すぎて説明できない。


「う……うん。大丈夫……たぶん」


 俺は汗をダラダラ流しながら答えた。

 ベルくんが何かを言いたそうにチラチラとこちらを見てくるけど気にしない。


「でだ、そろそろ元の体に戻らないか?」


「あい分かった」


 鏡の悪魔がパチンと指を鳴らす。


 グラリ。立ちくらみがして目をつぶる。

 そして目を開けると、俺は元の体に戻っていた。


「おおーっ、なつかしき我が体!」


 俺は自分のおっぱいを揉みしだいた。

 男の生活もそれなりに楽しかったけど、やっぱり慣れた体が一番だなあ。


「こらこら、はしたないぞ!」


 オディルが注意する。


「そんなこと言って、お前も女になっておっぱいとか色々と弄んだんだろ?」


「してないから!」


 久々の自分の体を満喫していると、モアが思い切り抱きついてくる。


「お姉様、男の人の体、どうだった?」


「おー、楽しかったけど、やっぱりこの体の方が落ちつくな」


「モアもこっちの方がいい! お姉様と抱き抱きできるし♡」


 抱きついてくるモアを力いっぱい撫でる。


「んー、可愛い可愛い♡」

「お姉様~♡」


 オディルは呆れたようにため息をついた。


「もういいか? はー、疲れた。詳しい話は後でベルから聞く。俺は帰るよ……」


 ダルそうに去っていくオディル。


「あ」


 そう言えば、オディルの姿の時、色々としちゃったけど、説明するのを忘れていた。


 ……大丈夫かな?



 大丈夫だよな?

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