第23話 お姉様と怪鳥

「お姉様!」


 元気の良いポニーテールが俺を出迎える。


「おーアン、帰ったぜ!」


 俺はアンの髪をわしゃわしゃと撫でた。


「ベルくんから話は聞きました。大変でしたね!」


「いや、結構楽しかったぜ?」


「それは良かった!」


 しばらくアンとそんな話をしていると、マリンちゃんがその巨体をゆらし、ニコニコしながらやってくる。


「あら、ミアちゃん、元のミアちゃんに戻ったのね~!」


 ん? オディル先生と入れ替わってたのがバレたのか!?


「何かやけにしおらしくなっちゃったから、嫌なことでもあったのかと思ったのよ!」


 ああ、そういう事か。


「いや、そんなことは無いぞ。ただ単に寝不足で」


 苦笑いを浮かべながら答える。そこへ今度はメリッサがやってきた。


「ミーアちゃん!」


 後から盛大に乳を揉むメリッサ。

 相変わらずだなー。


「良かった! 最近元気がないから、てっきり失恋でもしたのかとマリンちゃんと二人で話してたのよ」


「ま、まさかっ!」


 首をブンブンと振る。


「だって、おっぱいを揉んでも苦笑いしか浮かべないし」


「それは普通の反応です」


 ぴしゃり、とアンが言う。


「ええ? そうかなぁ?」


 するとメリッサは素早くアンの背後に周り胸を揉みしだいた。


「びやあああああ!!」


 たちまち二人のじゃれ合いが始まる。


「さ、この隙に」


「う、うん」


 俺とモアは、そんな二人を置いて厨房へ向かった。

 

「さて、今日はこの大根っぽいのを使った煮物か」


 俺は籠に大量に積まれた大根だか人参だかカブだかよく分からない野菜を手にした。

 

「何だこれ」


「ジエサーよ」


 マリンちゃんが答える。

 なんだそりゃ。


「エリスではあまり見ない野菜ね」


 どうやらモアも分からないらしい。


「さあ、一気に皮を向いてしまいましょう」


 マリンちゃんに包丁を手渡され、俺は額に汗を浮かべながら皮を剥き始めた。


「うむむ。難しいぞ」


 マリンちゃんは不思議そうに首を傾げる。


「やっぱりどこか変よ? 昨日はあんなにスルスル皮を向いてたのに」


「お、お姉様の料理のスキルにはムラがあるから……」


 モアが苦笑いをする。


「何だ? そんなにオディルは料理が上手かったのか?」


 俺はこっそりモアに尋ねた。


「うん、かなり」


 モアは頷く。


「刺繍も上手でしたし、大人しくてニコニコしてて女の子らしかったです」


 と、これはアン。

 やりすぎだぜ、オディル!


「でもモアはやっぱりいつものお姉様が好きっ!」


「モア~♡」


 モアと二人、ぎゅっと抱きしめ合う。


「あのお姉様、それより皮むきを......」


 マリンちゃんの虚しい呟きが、厨房に響いた。

 いいじゃないか、久しぶりなんだから!







「敵襲だー! 敵襲だー!」


 しばらくジエサーだかエイサーだかの皮むきに夢中になっていると、甲板の方から大きな声がする。


「おっ、敵襲か!」


 料理にいい加減飽き飽きしていた俺は、うきうきしながら甲板へと向かう。


「どうした? またロレンツ海賊団か?」


「違う! あれです!」


 アンの指差す方向には、ドラゴンと見間違うほどの大きなカラスが飛んでいた。


「カラス!?」


「この辺の鳥や魚はみんなデカいですから」


 アンがボウガンを構える。


「でやっ!」

 

 だが、放たれた矢をカラスは俊敏にかわす。


「早いな」


「鳥だからかな」


 モアも杖を構える。


「ウインド!」


 モアが唱えると、辺りに緑色のつむじ風が巻き起こる。

 

 風を受けたカラスは、上手く羽を動かせずバタバタと空中でもがいている。


「ようし、良くやった! あとは」

 

 俺は武器を呼び出すと、カラスに向かって飛んだ。


「でやあああああっ!」


 だが、俺の斧は空を切る。

 モアの魔法の効き目が切れたのだ。カラスが急旋回し、大空へと飛んでいく。


「ふう」


 俺はその場にしゃがみ込んだ。

 辺りには、カラスが残したであろう黒い羽と、ガラスの破片が飛び散っている。振り返ると、操舵室の窓が割れている。


 窓が……割れ……あれっ?


「ねえ、お姉様」


 モアが俺の腕を引っ張る。


「ああ」


 モアの言いたいことはすぐに分かった。

 カラスと言うのは光るものを集めたがる。


「もしかして、あのカラスが?」


 もしかして、例のブローチを盗み去ったのはあの巨大カラス??


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