第20話 お姉様と大人の時間

 朝起きると隣に寝ている裸同然の美女……かろうじてぱんつは履いているようだが、俺はこの美女となぜ寝て……!?


 呆然としていると、美女が色っぽい声で教えてくれる。


「私はネーニャ。ここはおっぱラの近くにある安宿よ」


「そ、そうか」


 クスクスと笑う美女。瞳の青がガラス細工のように朝日を反射する。


「あなた、お酒弱いのね。ここに着くとすぐベッドに倒れこんで寝てしまって朝まで起きないんですもの」


「あ――そう、なのか」


 ということは、俺はこの美女とは何も無かったのか。ホッとしたような、残念だったような。


 ……というか、魔法が解けてないし、何もしてないって事は間違いないな。


 俺が戸惑っていると、ネーニャはぐい、と俺のズボンを下ろした。


「うおっ!」


 思わず声を上げてしまう。


「ふふふ。何もしないわよ。ただ昨日見せてくれたお尻の刺青、また見てみたいなと思って」


 ええっ!!? し、尻!? 俺はこの女性に尻を見せつけたのか!?


 ネーニャはクスクスと可笑しそうに笑う。


「さっきも言ったけど、何もしてないっわ。ただ、お尻を見せてくれただけ」


 本当かよ。というかなんで何もしてないのにお尻を見せつけてるんだよ。逆にそっちの方が変態じゃねーか。


「うーん、何度見ても不思議な刺青。ねぇこれ、どこで入れたの?」


 不思議? オディルってばどんな刺青入れてんだよ。


 俺は鏡で尻を確認した。

 本当だ。何か、魔法陣みたいなのが刻まれてる。何だろう、これ。


「んー、これか? これをどこで入れたかはナイショ」


「えー、イジワル」


 意地悪も何も、知らないっつーの!


 教会の鐘が鳴り響く。


 そういや、外も明るいし、そろそろ戻らないとヤバいかもな。


「俺はそろそろ船に戻んねーと。この宿の料金は?」


 美女が提示する金額は然程高くない。良かった。


「わざわざこんな所まで来てもらったのに悪いな。俺はどうも自分で思っていたよりも酒に弱いみたいで、昨日のこと全く覚えてないんだ」


「そのようね」


 ネーニャが紫のスケスケのキャミソールとタイツを履きながら答える。すごく色っぽい。


「でも多分、あんたのことが凄く好みだから指名したんだと思う。昨日のことは覚えてないけど、何で昨日あんたを指名したかは分かるよ」


「そう、ありがとう」


 そう言うと、ネーニャは立ち上がり、俺の腕を引き――


 ドサリ。


 ベッドに押し倒した。


「――んンッ!??」


 頭が真っ白になる。

 

 目の前にはほぼ裸の美女。

 たゆんたゆんなおっぱいが、殆ど服としての体をなしてない薄いキャミソールから透けている。


「――ねぇ、帰る前に、せっかくだから楽しみましょ?」


 服の上から俺の下半身を撫でさするネーニャ。


 ……ああ、何か懐かしい感じ。

 俺の男の中心が熱くなって……じゃなくて!


 ヤバい。このままだと、魔法が解けてしまうううううう!


 そう。この魔法には欠点があり、キスをしたり性行為をしたりすると、元の姿に戻ってしまうのだ!


「ちょ、ちょ、ちょっと待った!」


 俺は鉄の意思でネーニャから身を離した。


「ご、ごめん、帰らなきゃ……」


 蚊の鳴くような声で俺は荷物を手にあたふたしてしまう?


「うふふ、貴方って、本当に可愛いわ」


 上目遣いで俺を見やるネーニャ。

 可愛い……? 童貞臭いってことか??


「じゃ、じゃあ、俺、行かないと」


 俺はぎこちなく手を挙げて部屋から走り去った。


 あ、あ、危なかったーーーー!!





「遅かったね。朝帰りだなんて」


 船に帰るなり、ベルくんが呆れ顔で出迎える。


「ご、ごめん、何か、酒に酔ってその辺で寝てたみたいで……」


 苦しい言い訳をする俺。

 ベルくんは俺を手招きすると、耳元でこっそり囁いた。


「気をつけないと。もし万が一のことがあれば――」


「分かってるよ……ウッ」


 あー、何か吐き気がしてきた。よく考えたら変身してるとはいえ16歳だし、あんまり体に良くないのかも。


「二日酔い? 水でも飲む?」


 コップに入った水を渡してくれるベルくん。


 背中に冷や汗をかきながら水を飲んでいると、昨日の髭面たちがやってきた。


「よー、昨日はおっぱラでお姉ちゃんたちと遊んで楽しかったなあ」


「お前、お持ち帰りしたあの美女とどうだった?」


 こ、こら!


「おっぱラ? お持ち帰り?」


 俺の背中をさすっていたベルくんが不審そうな目で俺を見てくる。やめろ。そんな目で見るなっ。


「おっぱいの大きなお姉ちゃんが沢山いる店さ。そこで昨日、こいつは巨乳美人と途中で消えてだなぁ」


「ち、違う。誤解だ!」


「ふーん、随分と店に行ったようで」


 ベルくんが呆れ返った目で俺を見る。


「ははははは」


 笑って誤魔化すしかない。


「それより、そのおっぱラというのを詳しく……」


「いやいや! それはそういう店だって知らなかったから仕方なく!」


「ふーん」


 髭面がニヤニヤと俺の肩を抱く。


「それにしても、お前がまさかあんなにおっぱいについて語るとは思っても見なかったぜ」


 周りの男たちも囃し立てる。


「ああ。凄かったよなぁ。おっぱい、おっぱいって」


「ははは……」


 俺、そんなにおっぱいについて語ってたのか? 覚えてない!


 思いっきりジト目で見てくるベルくん。

 俺はしどろもどろになりながら弁解する。


「いや、それは酔ってたから」


「いやあ、お前があんなに面白いとは思ってもみなかったぜ。普段は無口で無愛想な真面目男なのによ」


 ヤバい。オディルってそんな無口だったのか? 俺とは普通に話してたじゃねーか。


 それとも、もしかして潜入捜査してるからボロが出ないように無口キャラで通してたのだろうか。ありうるな。


 参ったな。こりゃ完全にキャラ崩壊どころの話じゃない。


「そうそう、今度からはお前も誘うから、また飲みに行こうぜ!」


「あ、ああ」


 俺は滝のように汗をかきながら答えた。


 髭面とその仲間たちが盛り上がる。


「そうそう、次はおっぱラの隣の『ふんどしパラダイス』にも行ってみようぜ!」


 何だそれ!


「ふ、ふんどし?」


 ベルくんが目を丸くする。


「ふんどし姿の男たちが男らしくお酌してくれる店だよ!」


 その言葉に、俺は飲んでた水を吐き出しそうになる。


「それだけじゃない! なんと、ふんどし姿の男たちが新体操してくれるんだ!」


 何じゃそりゃ。逆に気になるんだけど。


「確かそれはちょっと見てみたいな」


 俺がボソリというと、髭面が肩を抱く。


「やっぱりな! そうだよな」


 チラリとベルくんを見る髭面とその仲間たち。


 もしかして、ベルくんとデキてると思われてる? いやいや、それは無いぞ、絶対にないぞ!?


「いやいや、それはただの好奇心で」


「大丈夫、俺らそういうのには理解があるから!」


 ち、違う!!


「大体、俺はおっぱいが大好きだし!」


 必死で弁解する俺。


「そうか。ってことは、二刀流か!」


「違~~う!!」


 何でそんな風に誤解されてるんだよ!

 ベルくんを見るともう完全に呆れた顔でため息をついてる。


「じゃあ、約束だぜ? またな!」


 去っていく男たち。な、何か変な約束をしてしまった!


 盛大なため息をつくベルくん。


「オディルに怒られても知らないからね?」


「ははは……」


 確かに。これは……元の体に戻った時が怖い。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る