第19話 お姉様とワクワク♡おっぱいパラダイス

 『ワクワクおっぱいパラダイス』略して『おっぱラ』は港の男たちの楽園で癒しの酒場だ。


 中に入るとまず目に付くのは、巨大なステージ。そこに不自然なほど胸を強調した女性たちが立ち、それぞれセクシーなポーズをしたりポールダンスをしている。


 俺が呆然としていると、ステージにいた殆ど布をまとっていない女性がこちらに向かって谷間を見せつけるとウインクした。


「イケメンのお兄さーん、あたしどう?」

「ずるーい! あたしよね、あたし♡」


 俺のことか!?


 え、偉いところに来てしまった!

 キョドる俺の腕を髭男が引っ張る。


「あっちに座ろうぜ」


 よく見るとステージの横にテーブル席がある。

 そこで女の子たちがセクシーなダンスをするのを見ながら飲む、という仕組みらしい。


 俺は席に着くと落ち着かない気持ちで周りを見渡した。


 どうやらチップを払えば好みの女の子をテーブルに呼ぶこともできるらしい。

 目の前であられもない格好をして指名を待つ女の子たち。

 だが、俺たちは貧乏なのでただ女の子を眺めてちびちびと酒を飲むだけだ。


「かんぱーい!!」

「乾杯!」


 男たちと杯を交わす。


「ぷはー、やっぱ酒はいいなあ」


 顔を真っ赤にする髭男。


 俺は目の前にある透明な液体をじっと見た。とりあえず皆と同じ一番安い酒を頼んでみたのだが……これ、飲んでも大丈夫なのだろうか?


 周りを見ると皆美味そうに飲み干している。


 ビールでもワインでもない。何という名前なのかはよく分からない。謎の酒だ。

 でもこれを逃せば中々こんな場所で酒を飲むなんていう経験はできない。ここは思い切って!


 俺は意を決してアルコールを喉に流し入れた。


 喉に熱いものが流れ込む。腹が焼けるようだ。正直、味はよく分からない。......が飲める。もう一口。思ったより不味くない。というか美味い。疲れた体に染み渡る気がする。これが酒か。


「な、良いところだろ?」


 髭面が俺の肩を抱く。


「あ、ああ」


 俺があいまいに笑うと、隣にいた男たちが騒ぐ。


「おっ、あの子美脚!」


「お前、おっぱラに来てるのに脚、脚ってなんだよ」


「えっ? おっぱいより脚っしょ」


「絶対おっぱい! おっぱいこそ正義!」


 揉めだす男たち。いい年したオッサンたちのくせにどーでもいいことでケンカすんなよ。


「なあ、お前はどう思う?」


 急に話を振られて飛び上がる。


「えっ……俺?」


 俺は苦笑いをして答える。


「うーん、俺もどちらかといえば、おっぱい、かな?」


「だろー!? 巨乳こそ正義!」


 俺は慌てて訂正する。


「いや、俺はおっぱいでありさえすれば巨乳だろうが貧乳だろうが構わない!」


 まあ、巨乳だろうが貧乳だろうが一番可愛いのはモア。これは譲れないんだけどな!


「おーおー、熱く語るねぇ」


 席に巨大な骨付き肉が運ばれてくる。


「おー、でっけぇ!」


「さあみんな、遠慮せずに食え!」


 その言葉を合図に巨大肉にかぶりつく。

 サクリ、とパリパリに焼けた皮が音を立てる。スパイスの効いたピリ辛な味付け。中はしっとりとしてジューシーで、噛むと濃厚な肉汁が溢れだしてくる。


「うめぇ!!」


「だろ!? ここの骨付き肉は最高なんだ!」


 何だこれ! こんなに美味しい肉、食べたことないぞ!?


 いや、こういう脂っこい食事自体、女海賊の船じゃあんまり出なかったもんなあ。


 海賊の癖にポトフとかサラダとか魚料理とか、そういうのが多かった気がする。まあ、健康に気を使ってるんだろうけど。

 

 俺は一気に酒を飲み干す。


 塩辛いから酒が進むぜ!


「おおー、いい飲みっぷり!」


 そう、言われたのは覚えている。


 ……が、その瞬間、地面がぐらりと揺らいだ。


 そしてそれ以降の記憶がない。







「――ハッ!」


 目を覚ますと、見知らぬ天井だった。

 最低限の家具しかない狭い部屋。

 窓の外からは柔らかな朝日が差し込んでいる。


「痛てててて......」


 頭がガンガンする。吐き気も。二日酔いだろうか?


「ここは――」


 辺りを見回し、俺は愕然とした。

 狭いベット、清潔で居心地のよいシーツ、その横に――俺の隣に、裸同然の謎の美女が寝ている!!


「え......えええええええ!!」


 覚えてない! 全く覚えてない! 昨夜、何があったんだ!?


 褐色の艶やかな肌、細い銀色の髪。ふっくらとしてセクシーな唇に、グラマラスな肢体。美人だ。美人で可愛くてナイスバディ。


 好みのタイプではあるが、全く記憶にない。


「あら......おはよう」


 美女が目を覚ます。


 青い目だ。褐色の肌を色白にしたらモアを少し大人にした感じ。そして巨乳。


 この子――おっぱラに居たような気がする。


 昨日のことは覚えていないが、おっパラでお持ち帰りしたのだろうか?


 どうやって口説いたんだ? いやらしいことはしたのか? 金とかかかるのだろうか。全く分からないし覚えてない。


「ここはどこだ? 俺はなんで――」


 俺は頭を抱えた。

 まさか......この美女と一夜を伴にしてしまったのか!?


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