2-3章 お姉様と男海賊

第18話 お姉様と男海賊の暮らし

「本当に大丈夫か?」


 ベルくんが心配そうな目で見てくる。


 オディルになってみると、ベルくんは頭二つ分くらい小さい。上目遣いのベルくんはやけに小さくて可愛いく見える。


「大丈夫、大丈夫! 任せとけって!」


 どん! と胸を叩くとベルくんは変な顔をする。


「……何か違和感あるなぁ」


「えっ!? 何か変か? オディルってどんな口調だったっけ!?」


「あいつはもっと落ち着いてるよ」


 俺たちはそんな話をしながら港に停泊しているロレンツ海賊団――通称男だらけの海賊団に乗り込んだ。


 中はむさい男たちがひしめき合っている。向こうの船は割と可愛くて若い子も多かったが、こちらは残念ながらイケメンパラダイスではないようだ。


「あんまりキョロキョロすると周りにバレるよ?」


「はは、ごめんごめん」


 ベルくんが船室のドアを開ける。

 そこは女海賊の船と似たような、二段ベッドが二つ置いてある四人部屋だった。


「うっ」


 至る所にゴミが散乱している。服や靴下も脱ぎ捨てられ、酒瓶が転がっている。


 それになんか、男臭い!


「……女の子の部屋の方が良かったなぁ」


「そう? 僕は男の部屋の方が落ち着くけど」


 ベルくんが苦笑する。そう言えば、ベルくんは女装して向こうの船に忍び込んでたんだもんな。


「ところで、オディルのベッドはここか? 散らかってんなあ。片付けといてやるか」


 俺は枕元に置いてあった服を畳んだり本をまとめることにした。


「あんまりいじらないほうが良いんじゃ」


「へーきへーき。どれ、エロ本とか隠してないかな?」


「や、やめなよ~!」


 俺が布団の下を漁っていると、急にドアが開いた。


「おーう、二人とも、今から飲みに行くんだが、一緒に行かねェか?」


 髭面に小太りのむさ苦しい男が叫ぶ。


「飲み会……かぁ。ベルくんはどうする?」


「僕はいい。子供なのでお酒は飲めないし」


「じゃあ俺も」


 言いかけた俺の腕を髭面が掴む。


「まあまあ、硬いこと言わずにさっ。お前は立派な大人だろ?」


「そうだけど、飲み屋だろ!?」


 そこで俺ははたと気がついた。待てよ……飲み屋か。


 そう言えば、ここでは18から成人だから俺は酒を飲んだことがない。勿論の世界でも。


 でもオディルの体なら成人してるから酒が飲めるじゃねーか。


「じゃ、じゃあ、ちょこっとだけ」


「ちょ、ちょっと!」


 ベルくんが困り顔をするけど気にしない!


「よし、決まりだな!」


 ニコニコと笑って俺の肩を抱く髭面。

 つうか、すでに酒臭いんですけど!?


「い……いいの!? 正体バレない?」


 心配げな顔でコソリと呟くベルくん。


「大丈夫、大丈夫! 心配すんなって!飲み過ぎないようにようにするからよ~」


「オディルはそんなこと言わない!」


 だからオディルの口調ってどんなだよ!


「じゃあ、早速行くか!」

「おー!」


 ベルくんに別れを告げ、髭面とその仲間たち五人ぐらいで飲み屋に向かう。


 歓楽街の狭い裏路地を抜ける。

 犬みたいにデカいカラスを追い払うと、薄暗い通りに出た。


「さあ、着いたぞ。ここだ」


 髭面が指さす店。

 その店名を見て俺は唖然とする。


 そこにはピカピカ光る妖しげなピンクのネオンで



『ワクワク♡おっぱいパラダイス』



 と書かれていた。


 おっぱい……パラダイス!?

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