第12話 お姉様とお風呂はパニック

 商船を襲うって……。


「そ、それ、犯罪じゃねーか!」


「当たり前だろ、海賊なんだから」


 しれっとした顔でグレイスは言う。


 確かに。マンガやアニメの海賊みたいなのを勝手に想像してたけど、海賊の本業と言ったら略奪だよな。


 いやでも、やっぱり悪いこともしてない人間を攻撃するなんてできねーから!


「なんだ、まさか出来ないのか?」


 挑戦的な琥珀の目。

 俺はたじたじになってしまう。うう、なーんか苦手なんだよなあ、この瞳。


「いや、ただモンスターを相手にするのと違って人間を相手にするのは慣れないというか」


「慣れろ。以上だ」


 カツカツとブーツの踵を響かせ去っていくグレイス。


「お姉様……」


 モアが心配そうな瞳で見つめてくる。


 ど……どうしよう!!

 俺はとうとう犯罪者になっちまうのか!?




「お風呂だーっ!!」


 そうこうしているうちに夜になり、モアがニコニコしながら服を脱ぎ捨てる。全く、本当にお風呂が好きなんだな。


「結構混んでるね。もう少し空いてる時間帯に来ればよかったかな」


 俺も船員の女の子たちに混じって服を脱ぐ。やっぱり女の姿をしているとは言え裸の女の子たちに囲まれるのは緊張する。



「ヤダちょっと太ったー!」

「えー? あんた痩せてるじゃん」

「太ったってー!」

「いいじゃん、胸があんだから!」

「その下着どこで買ったのー?」


 若い女子たちが騒ぐ。なんだか女子校みたいだな。


 乳白色の湯船に浸かる。この世界に入浴剤はたぶん無いと思うので、薬草か何かかな?


「あれ? お姉様ったらまた胸大きくなった?」


 モアが後ろから胸を揉んでくる。


「もう~モアったら♡」


「きゃーん♡」


「相変わらず、仲良しですね」


 そう言ったのはアンだ。

 俺はごくりと唾を飲み込んだ。


 結局、あれ以来、アンには例のモアそっくりの女装っ子の事について聞けていない。

 聞きたいのだが、切り出すタイミングがどうにも掴めない。


 あいつは一体誰だ? アンとの関係は?


「失礼しまーす」


 そこへやって来たのは、メリッサだ。


「やだ、アンってば相変わらず成長してないわね?」


 メリッサが後からアンのささやかな胸を揉みしだく。


「ぎゃああ、何であたいばっかり!」


「ハハハ、アンは反応がいいから」


 メリッサはアンの胸を揉みながらも俺の体を舐めるように見た。


「それにしても、ミアちゃんの白くてすべすべの肌! 触ってもいい?」


「ダメーッ!」

「ダメです!」


 モアとアンが二人して反対する。


「何よォ、女の子同士なんだからいいじゃないの。ヤダ、モチモチ!」


 俺の二の腕をいやらしい手つきでさわってくるメリッサ。


 モアとアンは血相を変え、メリッサの腕を無理やり引き剥がす。


「やだー、お姉様に触っちゃやだー! お姉様に触るくらいならモアに触って!」


 モアがずい、と前に進み出る。


「モ、モア!」


「んー、でもモアちゃんは子供だしぃ......じゃあ、可愛い可愛いしちゃおうかなー」


 メリッサがモアの頭を撫で回して抱きしめる。


「可愛い、可愛いー!」


「モア、子供じゃないもん!」


 どうやら、モアには危ないことはしなそうだな。


 俺はほっと息を吐いた。


「全く、いい加減にしてください!」


 アンがメリッサからモア引き剥がす。


「ん? 何? 嫉妬かな?」


「誰がですかこの変態!」


「ひどーい! ちっぱいのくせに!」


「あたいは普通だ! みんながデカすぎるだけ!」


「はあ……何だかのぼせてきたぜ……」


 俺は二人が揉めてる隙に風呂を出た。


「商船を襲うのは明日か」

 

 どうしようか。適当に戦ってる振りしてやり過ごすか。


「あれ?」


 そんな風に考え事をして歩いていると、またしても、いつの間にか知らない道に出てしまった。


「ここ、どこだ? 倉庫?」


 暗い船内をキョロキョロと辺りを見回しながら歩く。道を聞こうにも周りには誰もいない。


 参ったな。モアたちと一緒に風呂を出てくれば良かったかな。


「もしかして、セラスのブローチがこの辺の部屋のどこかにあったりしないかな」


 すっかり頭から抜けていたけど、そもそもこの船にはセラスの依頼で忍び込んだんだった。


 俺は倉庫の一つを覗いて見た。そこにはロープやナイフ、ランプなど船の必需品が入っている。


 隣の倉庫を開ける。小麦粉と砂糖と塩。次の部屋には、野菜と果物が備蓄されている。


 そして最後の部屋を開けようとしたが、カギがかかっていて開かない。


「この部屋、怪しいな」


 俺はヘアピンを取り出し、鍵穴に差し込んだ。鍵は複雑な作りじゃなさそうだし、これで開かないだろうか。


「手応えがある。何とか開きそうだな」


 そうして俺がカチャカチャやっていると、ふいに眩しいランプの光でこちらを照らされた。


「そこにいるのは誰!?」



 や、やべー!!

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