第11話 お姉様とキラーフィッシュ

「きゃああああ! モンスターよぉ!」

「キラーフィッシュだわ!」

「嫌ぁ! あっち行けっ!」


 女の子たちの叫び声があたりに響く。


「どうした!」


 甲板につくとそこはマグロみたいにデカくて、トビウオみたいに羽のついた魚で溢れかえっていた。


「――シャアッ!」


「うわっ!」


 魚が、まるで刃のように次々飛んできて、食いつこうとする。


「なんだこいつ!」


 咄嗟に両手で捕まえる。銀色の羽をバタバタと動かした真っ赤な目の魚が、サメみたいに尖った歯をカチカチ言わせている。


「うわ、なんだこいつ、キモい魚!」


 アンが虫取り網を手に目を見開く。


「お姉様凄い! キラーフィッシュを捕まえるなんて!」


 そんなに凄い事なのだろうか。確かに歯が危ないし、すばしっこいけどさ。


「とにかくこいつを退治すればいいんだな?」


 俺はコキコキと指を鳴らした。


「お姉様、武器は?」


 モアが俺の顔を心配そうに見やる。


「……あれっ?」


 しまった! 邪魔になるからと調理場の隅に寄せて、そのまま置いてきちまった!


「しょうがねぇ!」


 俺は仕方なくその辺に転がっていたデッキブラシを手に取った。

 素手でも闘えることは闘えるが、手が生臭くなるのは嫌だからな。


「せやっ!」


 ――ブン!


 空を切る音に合わせ、ボトボトと魚が降り注ぐ。


「へえ、やるわネ」


 マリンちゃんがウインクする。


「では私も……はあああッ!」


 両手でがっしりと魚を掴むと、握りつぶすマリンちゃん。ムキムキの上腕二頭筋が凄い。いや、凄いけど、なんだか凄く効率悪くないか?


「でも、これじゃらちがあかないぜ。モア、何かいい魔法はないのか?」


 俺はデッキブラシをぶん回しながら叫ぶ。


「ちょっと待ってね、お姉様」


 ペラペラと魔導書をめくるモア。


「あ、あった。森よ風よ漂う千の霊気……」


 モアのくまさんロッドが光り、風が吹き上がる。


「トルネーード!!」


 途端、辺りに渦を巻いた風が巻き起こる。

 風の刃で切り刻まれていく魚たち。


「きゃあ!」

「な、なんだよこれ!」


 帽子や髪の毛、スカートを抑える船員たち。


 風魔法!? 火や水の魔法よりは威力が弱いようだが。


 見る見るうちに甲板に魚の切り身が積み上げられていく。


「モア……これは」


「えへへー、新しい魔法、試してみちゃった」


「凄いぞ!」


 周りでは、船員たちが大急ぎで魚の切り身を拾い集めている。


「沢山あるわね」

「今日の晩御飯にしましょ!」


 げげっ、あれ、食うのかよぉ。


 横にいたマリンちゃんはポカンと口を開ける。


「あなた達、何者?」


 やっべぇ。ちょっと目立ちすぎたか。

 俺は笑って誤魔化す。


「あはははは。ちょーっと魔法が使えるだけだよ」


 視界の端で、グレイスが微かに眉を上げたのが見えた。

 ヤバい。何か、警戒されてる?


「なるほど、ミアちゃんは怪力で、モアちゃんは魔法が使えるのね」


 マリンちゃんがふむふむと頷く。


 グレイスがそれを聞きやってくる。

 俺はその眼光にたじろぎ一歩下がった。


「ふむ。マリン、この者たちには実力があると?」


 グレイスに聞かれたマリンちゃんはモジモジしながら答えた。


「はい……なんて言うか、他の人たちとは、オーラからして違うというか」


「ふーん」


 グレイスが再び俺たちを見つめる。

 俺は冷や汗をかきながら一歩下がった。


「そんなに強いんなら、今度戦闘に連れて行ってみるか」


 ニヤリと笑うグレイス。


「戦闘?」


「ああ」


 鋭く光る琥珀の瞳。グレイスはサラリとこう言った。


「今度、商船を襲いにでも行こうじゃないか


 まるでその辺の飲み屋にでも誘うみたいに。

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