第13話 お姉様と宝物庫の謎

「誰だ! ここで何をしている!」


 ランプで眩しく照らされる。


 やべー! 絶対絶命だ!


 すると、ランプの主がカツカツと近寄ってくる。


「何だ。お姉様じゃないですか。こんな所で何してるんです?」


 俺の顔を眩しく照らしたのはアンだ。


「なんだ~アンか」


「何だじゃないですよ。こんな所で何してたんです?」


「それは、あの、道に迷って」


 冷や汗をダラダラとかきながら答えると、アンは溜息をつき、懐から鍵を取り出すと倉庫を開けた。


「調べたいなら調べて下さい。ここへは、何かを探しに来たんでしょう?」


 腕を広げ、倉庫へと促すアン。


「えっ? いいのか?」


「人が来ます。さっさと中に入って下さい」


 俺はアンと共に倉庫の中に入った。


「えーっと」


「こっちが金貨、こっちが時計類、こっちは宝石で、こっちがネックレスとブレスレット。そしてここが指輪とブローチです」


 親切にも教えてくれるアン。


「安心してください」


 アンは小さく息を吐いて笑った。


「あなた達の目的はもう分かっています」


 目的は分かっている? どういうことだ? アンも、俺たちと同じに何かを探すためにここに潜入しているのか?


「これは倉庫にしまってある物品の目録です。見たければ見るといいと思います」


 薄いノートを手渡してくるアン。ざっと宝飾品のページに目を通すが、それらしいものは無い。


 それにしても、グレイスって几帳面なんだな。お宝を手に入れた日付をきちんとメモしてるし、お宝を入れてある棚も品目ごとに整理されている。


 俺はしばらく棚を漁ったが、それらしいものが見つからないので諦めて手を止めた。


「どうしました? そちらの探しているものは無いのでしか?」


「ああ、無いみたいだ。宝物庫はここだけ?」


「ええ。ここに無いとしたらあとは考えられるのはグレイスの船長の部屋ぐらいでしょうか」


 グレイスの部屋か。侵入するのはかなり難しそうだ。


「それに――おそらく、お姉様の探しているものはここにはもうないと思います」


「どういう事だ?」


「そのままの意味です。さあ、捜し物は無かったのなら、さっさと部屋に戻りましょう。人に見られるといけない」


 アンに促され、部屋に戻る。

 一体、どういう事だ?





「お姉様、アン! どこに居たの? 先にお風呂から出たはずなのに居ないから!」


 部屋に戻るとモアが抱きついてくる。


「ははは、ごめんな」


「お姉様が道に迷っていたので、案内したんです」


 アンがサラリと答える。まあ、間違っちゃいない。


「あ、ああ。そうだ」


 モアはジロリと半目で俺を見た。

 

「お姉様、嘘ついてる。お姉様が嘘ついてるの、モア分かるもん。昨日からずっと変。何か隠してるでしょ」


 するとアンがプッと吹き出した。


「いやはや、これは鋭いですね」


 俺は観念して白状した。


「実は、アンにここに潜入している事がバレた」


「やっぱり」


 ため息をつくモア。何で分かったんだよ!?


「それとだ。アンも何かの目的でここに潜入しているらしい」


「ええっ?」


 アンは頭をかいた。


「潜入しているというか、元からあたいは船員だったんですが、こっそり調査をしているというか」


「調査?」


「それは、あのこっそり会ってた少年と何か関係があるのか?」


 アンが息を呑む。


「ま、まさかその事まで知っているとは。尾行には気をつけていたはずなんですが」


「まあな。で、あいつは何なんだ?」


 観念したように、アンは話し出す。


「あの人は、ベルくんと言って、数週間前までこの船に女装をしてスパイとして入り込んでいたんです。この船にあるはずのを取り返すために」


 女装をして、この船に乗り込んでいた!?


「でもその正体はすぐにバレて、処刑されそうになったんですが、グレイス船長のある命令を聞くことで処刑を免れたんです」


「ある命令?」


「ええ、グレイス船長は、ロレンツ海賊団という海賊に盗まれたある宝を取り戻して欲しいとベルくんに頼みました」


「ロレンツ海賊団?」


 ここの他にも海賊団があるのか。


「ええ。グレイス海賊団とは犬猿の仲のいわばライバル関係にある海賊団で――男だらけの海賊団です」

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